デジタル・ネットワーク社会の到来とともに、大衆によるコンテンツ (音楽や放送番組) の利用において、便益を提供する事業など、ニッチビジネスを狙ったベンチャー企業とそこで主導権を握ろうとするJASRACや放送事業者などの大手権利保持者とのバトルが、2011年頃に始まったファイルローグ事件以来、数多く発生し、法廷闘争に持ち込まれ、これらの事件に対する裁判所の判断も分かれてきました。 しかしながら、2011年にロクラクⅡ事件及びまねきTV事件に関する最高裁判決が出されたことで、こうした闘争に関し、おおよその決着が着いたように見受けられます。 これら一連の事件においては、デジタルコンテンツの利用に関し、主導権を取りたいJASRACや放送事業者などの大手権利保持者、コンテンツの利用に関し、大衆に便益を与えるなどのニッチ事業の展開を図るベンチャー企業、デジタルコンテンツのエンドユーザーたる大衆という三者の利害をどう調整するかという問題が提起されました。 そして、この問題に関しては、大衆によるコンテンツ利用行為が侵害にならない場合でも、事業者の行為が大衆の行為を管理していると評価可能であり、これによって収益を上げている場合は、著作権法の規律の観点から、事業者の行為をコンテンツ利用行為として捉え侵害とするというカラオケ法理が適用され、事業者の行為が差し止められるという判断基準が示されることがありました。 また、大衆によるコンテンツ利用行為が侵害となる場合に、その行為を可能、もしくは、容易にするシステムや機器の提供者の行為に上記カラオケ法理を適用し、事業者も侵害者であるとした判断基準が示されることもありました。ただ、これらの判断基準の定立は、著作権法の単純な条文解釈からは導くことができず、裁判官を含めた専門家達の著作権制度に関する根本的価値観から導かれるという性格のものであるため、裁判所の判断も分かれることになったのです。 ただ、上記の通り、最高裁判所がいずれの事件にも最終的な判断基準を示したことにより、今後のビジネス実務もこれに合わせてビジネスモデルを構築しなければ、事業自体が成り立たないということになります。 本講演では、侵害の成否と侵害者の範囲という観点から、一連の事件において定立された裁判所の判断基準を解説し、今後想定されるビジネスモデルの実現可能性、権利保持者側からは新興ビジネスに対するライセンス料取得の可能性について検討します。