2012年に入って、世界の石炭資源を巡る情勢は重要な転換点にある。 第1に米国のシェール・ガス革命によって米国産の石炭価格が下落し、コロンビア産の余剰の石炭がアジア大洋州市場に流れ込んでいること。 第2に世界最大の石炭消費国である中国が、欧州諸国における信用危機の深刻化の影響を受け、経済活動が急速に減速し、電力需要の伸び率が鈍化し、海外からの石炭の買い漁りの動きを弱めている。 この2つの要因によって、国際石炭価格が下落するとともに、バラ積み船の船賃も下落している。 もともと、石炭は、常温・常圧において固体であるために、輸送・貯蔵が難しく、単位体積当たりのエネルギー密度が低く、輸送用燃料としては石油エネルギーに劣後し、単位熱量当たりの炭酸ガス排出量が多いために地球温暖化問題の元凶とされてきた。 しかし、石炭は、①資源埋蔵量が、エネルギー換算で石油の2倍と豊富にあること、②石炭資源は石油・天然ガス資源のように一部の国に偏在することなく、主要な消費国に豊富に存在すること、③単位熱量当たりの価格が石油の5分の1程度と極めて安価なエネルギーであり、熱源としての利用においては、石炭が一番経済的な競争力を持っていること、等から資源エネルギーとしての石炭の評価が高まっている。 21世紀に入り、一番消費量が増加した化石燃料は他ならぬ石炭である。石炭は発電用・産業用の燃料としての一般炭と粗鋼生産の原料としての原料炭に大きく分けることができる。一般炭については、世界的に原子力発電が見直される中で、一番価格競争力のある火力発電燃料として大きな注目を集めている。 電力需要の伸びの著しいアジア諸国における最大のエネルギーは今後も石炭である可能性が極めて強い。原料炭については、供給サイドにおいてはBHPビリトンをはじめとした資源メジャーによる寡占化が進む一方、需要サイドにおいては中国をはじめとした新興経済発展諸国における粗鋼生産の急増とともに、原料炭を巡る需給環境は大きく変化して、原料炭市場は売り手市場に変貌した。 世界経済の低迷に直面し、温室効果ガス排出削減交渉が停滞する中、経済成長著しい新興経済発展諸国においては、発電コストの安価な石炭火力発電ビジネスが大きく拡大することは確実である。日本は超超臨界圧石炭火力発電をはじめとした世界最高効率の石炭火力発電技術、硫黄酸化物除去等の優れた環境技術を持っている。 価格の安さを武器とした中国企業、韓国企業との競争が熾烈になる中、日本企業による石炭資源開発と石炭火力発電を巡るビジネス・チャンスについて詳細に解説する。