人為的な修理が困難な宇宙機器や航空機用等の先端高分子材料の自己修復材料化が研究開発の主対象であった。それが、高分子材料製品の長寿命化や再使用のための自己修復化へと社会が必要とする高分子材料の自己修復化へと研究対象が広がり、最近では、自動車の塗装やパソコン画面の擦り傷や凹みなどの美観を維持するための自己修復高分子材料が商品化されるようになった。このような高分子材料及びコーティングの自己修復メカニズム・技術を解説し、実用・商品化の事例を紹介する。
高分子材料の自己修復が対象とするのは、破損、機能喪失、美観などであり、使用機器や目的により対象は異なる。修復対象や目的により、用いる修復メカニズムも異なる。破損等の修復には分散修復剤、機能喪失には架橋の切断・再結合、美観の維持には形状記憶効果など利用される。このように多様分野での高分子自己修復研究へのニーズ、多様な自己修復メカニズム、高分子自己修復材料が実用されている現状について解説する。
【1】自己修復材料研究開発の現状
- 米国における自己修復材料研究
- NASAにおける宇宙機器用高分子自己修復材料研究
- DODが必要とする航空機用高分子自己修復材料
- イリノイ大学における高分子自己修復材料研究プロジェクト
- ヨーロッパにおける自己修復材料研究
- ヨーロッパの自己修復材料の中核研究機関のデルフト工科大学
- デルフト工科大学のインフラ、医療用、生活用自己修復材料研究
- 我が国における自己修復材料研究
- 物質・材料研究機構の研究例
- 東北大学の研究例
- 中部工科大学の研究例
- 他の研究機関における研究例
【2】高分子材料の原子・分子レベルの自己修復化とメカニズム
- 原子レベルの自己修復、主鎖切断と再結合
- 原子レベルの損傷と損傷の進展・破壊
- ポリフェニレンエーテル (PPE) の自己修復
- ポリエチレンテレフタレート (PET) の自己修復
- 分子レベルの自己修復、主鎖間の架橋の修復
- 主鎖間の架橋の切断と再結合
- ディールスアルダー反応による自己修復
- ディールスアルダー反応自己修復の特徴と応用
- 水素結合をもつ超分子高分子の自己修復
- イオン結合等の物理的な架橋による自己修復
- イオン結合の自己修復効果の応用
【3】高分子材料のマイクロクラックの自己修復
- 修復剤内包カプセル分散による自己修復
- 修復材内包カプセルの作製方法
- 修復剤内包カプセルによるクラックの自己修復
- クラックの自己修復効果の計測と評価
- 修復剤内包カプセル分散による自己修復の実用化の課題
- 修復剤内包ファイバー配向による自己修復
- 修復剤内包ファイバー配向の複合材料
- 修復剤内包ファイバー配向複合材料の自己修復効果と航空機への応用の期待
【4】表面コーティングの自己修復
- 形状記憶効果を利用した自動車用塗料の自己修復
- ウレタンの弾性ひずみ回復による塗料の擦り傷と凹みの自己修復
- 水素結合効果を利用した塗料の擦り傷と凹みの自己修復
- カプセルを分散させた塗料によるクラックの自己修復
- 紫外性照射を利用した塗料のクラックの自己修復
- 毛細血管状導管の作り込みによる表面コーティングの自己修復
【5】自己修復材料の実用化・商品化事例
- 自動車の自己修復コーティング塗装
- ノートパソコン筐体の自己修復コーティング
- 自己修復液晶保護フィルム
- 自己修復遮水シート
- 自己修復自動車タイヤ
【6】今後期待される自己修復材料
- 環境・エネルギー問題を軽減する自己修復材料
- 高分子材料のリサイクルを可能にする高分子自己修復材料
- 高分子材料を長寿命化させる自己修復材料
- 資源問題を軽減する自己修復材料
- 住宅の耐久性や長寿命化のための高分子材料の自己修復
- 日常品の自己修復化による耐久性と長寿命化
- 生活を快適にする自己修復材料
- 表面キズを消失させる自己修復塗料
- 表面の汚れを自律的に除去する自己修復材料
- 自己修復生体材料
- 生体材料の生体内での使用に伴う傷や剥離を修復させる自己修復生体材料
- 新たな材料と機能を用いた自己修復生体材料
- 再生医療の概念を手本とする自己修復材料