米国を震源地とするシェール・ガス革命によって、世界の石油化学産業の地図が塗り替えられようとしている。 日本の石油化学産業は、エチレン生産が2010年に3年ぶりに年間700万トンを超え、2011年春までは予想以上の活況を呈していた。 2011年春までの石油化学産業の好業績の理由は中国向けを中心に自動車、家電製品に利用する合成樹脂の需要が急増し、衣料品の化学繊維の原料となるポリエステルも好調を持続していたからである。 しかし、欧州諸国における信用危機に端を発する世界経済の景気後退とともに、中国向けをはじめとしたポリエチレン、ポリプロピレンの需要が大きく減少し、2011年度のエチレン生産量は647万トンと17年ぶりの低水準に落ち込んだ。 これまでは、中東、中国において相次いで、大規模石油化学プラントが立ち上がっているものの、中国をはじめとしたアジア諸国における需要の伸びに供給が追いつかず、石油化学製品、原料のナフサの需給逼迫が続き、日本の石油化学製品の輸出も順調に増加すると考えられていた。 しかし、2012年年初からの欧州諸国の信用危機の深刻化により状況が大きく変化した。 輸出においては、①2012年の春節以降も、中国における石油化学製品需要が減少していること、②ロー・コストの天然ガスを原料とする安価な中東諸国の石油化学製品のアジア市場流入が増加していること、③円高の進展による日本の石油化学企業における輸出競争力低下と安価な低品質海外製品輸入の増加、④米国におけるシェール・ガス革命による、ナフサの10分の1程度という安価なエタンを原料とする欧米石油化学メーカーの相次ぐ巨大エチレン・プラントの建設計画、が挙げられる。 国内においては、東日本大震災からの復興特需が遅れ、原油価格の高騰によるナフサ価格の上昇に伴い、デフレが進行する日本経済において、原料価格の高騰を最終製品価格に転嫁できないという問題を抱えている。 既に、三菱化学はエチレン生産能力の3割削減を打ち出し、国内の過剰生産能力統合・再編への動きが本格化してきた。 他方、日本企業は、電子機器向けをはじめとした高機能プラスチックの増産、アジア諸国への工場展開、米国におけるシェール・ガスを利用した石油化学製品製造技術の開発によって活路を見出そうとしている。 こうした日本の石油化学企業における海外展開戦略の最新動向と高機能樹脂の今後の可能性、石油化学企業の生き残り戦略とシェール・ガス革命に伴う事業機会について詳細に解説する。