本セミナーでは、予想よりも時間がかかっている全固体電池の開発、リチウム、コバルト、ニッケル資源の開発状況と価格を見通し、高価なレアメタルを使わない蓄電池の開発動向等、世界の金融市場を揺るがす場当たり的なトランプ関税は、日本の自動車産業にどのようなインパクトを与えるのか等、2030年に向けて不透明感が増す次世代自動車の未来像を展望し、日本企業にとっての事業機会について次世代自動車の第一人者が分かりやすく解説いたします。
いうまでもなく自動車産業は、世界各国の経済における中心的な存在であり、経済的観点、脱炭素政策のみならず、雇用創出の観点から国家の政治的な問題として注目されることが多い。これまで脱炭素政策から、電気自動車の開発と販売増加が注目されてきた。しかし、過度な脱炭素政策の見直し、脱炭素に後ろ向きなトランプ政権の誕生により、電気自動車の販売が減速し、より安価な炭酸ガス排出削減方法として、日本のハイブリッド車の販売が好調となっている。 電気自動車の伸び率鈍化の理由としては、1環境意識の強い、富裕層への電気自動車の販売が一巡したこと、2電気自動車は、ガソリン車、ハイブリッド車と比較して割高であり、一般のボリューム・ゾーンへの訴求力に欠けること、3ガソリン車と比較した短い航続距離、4蓄電池への充電インフラストラクチャーが整備されていないこと、5各国が電気自動車への補助金を削減していること、等が挙げられる。他方、中国は、BYDをはじめとした新興電気自動車メーカーが、政府の支援のもと、余剰生産能力による値下げ競争を強化し、BYDの2024年における販売台数は、日本のホンダ、日産を抜く存在となっている。テスラはマスク氏のトランプ政権への接近、保守的な発言から、販売が減少している。中国の自動車輸出台数は、日本を抜いて2年連続で世界第1位となっている。電気自動車の伸び率鈍化を尻目に、割安で使い勝手のよい日本のハイブリッド車の販売は好調で、トヨタの2025年3月期の純利益は4兆5,200億円と好調を維持し、株式時価総額は2倍の60兆円を超えた。 しかし、長期的に見れば、脱炭素の流れのもと、電気自動車の普及は間違いない。2023年における電気自動車の世界販売台数は1,360万台と新車販売市場の10%を超えており、2026年に2,000万台、2035年に5,000万台を超えるという意欲的な予測もある。電気自動車の生産台数の増加とともに、リチウム・イオン電池に必要不可欠なレア・メタル、レア・アースの価格が、資源エネルギー大国ロシアによるウクライナへの侵攻により不安定となっている。2022年春には、リチウム価格は前年比6倍、ロシアが主生産国となっているニッケルは過去最高値、その他にも、ネオジム、ジスプロシウム等のレア・アース価格も高騰した。レア・メタルの価格高騰は、電気自動車の中心となっているリチウム・イオン電池の価格上昇につながる。レアメタル価格の高騰とレアメタルに係わる地政学リスクへの対応から、三元系ではない、コバルト、ニッケルを使わないリン酸鉄リチウム・イオン電池の技術革新が生まれ、テスラ等の電気自動車にも搭載されている。 これまでは電気自動車に距離を置いていると思われてきた世界首位の自動車メーカーのトヨタが、2021年12月14日に2030年に電気自動車の世界販売台数を350万台と大幅に引き上げ、2024年における目標は2026年までに年間150万台、投資額も蓄電池を含めて4兆円と、電気自動車に注力することを表明した。2022年1月にはソニーも、電気自動車をエンタテインメントの一つとして、参入することを表明し、日本を代表するソニーとホンダが手を組み、既存の大手自動車メーカー、IT企業、新興企業を巻き込んだ壮大な、「グレート・ゲーム」が行われている。2024年7月には、電気自動車開発に関して、ホンダと日産自動車、三菱自動車が、共同で電気自動車開発に取り組む。2025年2月には、ホンダと日産自動車の提携は頓挫したものの、自動車企業の統合への動きは続いている。EV (電気自動車) 、FCV (燃料電池車) 等の開発・生産に、世界の大手自動車メーカーが研究開発競争を繰り広げ、既存の自動車メーカーと新興企業が熾烈な競争を展開している。テスラのEV販売台数は2022年に131万台、2023年に180万台、2024年179万台と、伸び率が鈍化している。日本を含めた世界において、ハイブリッド車、プラグ・イン・ハイブリッド車等の次世代自動車への動きは加速している。英国は2030年 (2023年夏に2035年に先送り) 、フランスは2040年、米国カリフォルニア州とニューヨーク州は2035年までに、ガソリン車、ディーゼル車の販売禁止を打ち出し、日本も2030年代半ばには、ガソリン車から、ハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車等の電動化を目指すこととしており、2022年6月には軽自動車EVの販売も本格化している。自動車販売が好調な中国は、2035年には新車販売の50%について電気自動車をはじめとするNEV (新エネルギー車) として、残りの50%をハイブリッド車とする環境対応を目標としていたものの、2024年1月には、2027年までにNEVを45%とする目標引き上げを行っている。テスラを追い抜くべく、トヨタ、フォルクス・ワーゲン、GM等の大手自動車メーカーが、電気自動車とリチウム・イオン電池の開発競争を強化している。電気自動車は、トラック部門にも拡大し、ダイムラーは、航続距離800キロメートルの大型トラックを2024年に量産化する。 リチウム・イオン電池の技術革新と価格低下により、意欲的な見通しにおいては、2040年の世界の電気自動車市場は、新車販売の50%以上を占める。電気自動車は、スマート・フォンと比較して、1万倍近くのリチウム・イオン電池の容量を必要とし、レアメタルであるリチウム資源、コバルト資源の偏在と、需要の増加に供給が追いつかないうえに、ロシアによるウクライナへの侵攻もあって、正極材に使うリチウム、コバルト、ニッケルというレア・メタルの価格も高騰した。リチウム・イオン電池については、正極材、負極材、電解液、セパレーター等の素材において、日本企業が世界最先端の強みを持っていたが、製品、部品そのものは中国企業、韓国企業に世界市場を席捲されている。中国製の電気自動車による市場席捲への脅威論、国内の自動車産業と労働者の保護から、トランプ政権は、中国製の電気自動車に対して100%の関税をかけ、EUは中国製の電気自動車への追加関税をかけた。2025年1月に誕生したトランプ政権は、電気自動車優遇策を見直し、化石燃料優遇策を打ち出し、2025年4月から25%の関税をヵ国の自動車に課する。米国においては、ハイブリッド車に強みをもつ日本の自動車メーカーが業績を伸ばしている。予想よりも時間がかかっている全固体電池の開発、リチウム、コバルト、ニッケル資源の開発状況と価格を見通し、高価なレアメタルを使わない蓄電池の開発動向等、世界の金融市場を揺るがす場当たり的なトランプ関税は、日本の自動車産業にどのようなインパクトを与えるのか。2030年に向けて不透明感が増す次世代自動車の未来像を展望し、日本企業にとっての事業機会について次世代自動車の第一人者が分かりやすく解説する。
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