日本の洋上風力発電プロジェクトの先陣を切っていた三菱商事連合のプロジェクトが2025年に入って522億円の損失を計上し、再生可能エネルギー関連の産業から大きな注目を集めている。ウクライナ危機以降のインフレーション、円安によって、資機材価格の高騰、人件費の上昇、金利の上昇が発生し、洋上風力発電は、日本のみならず世界において逆風が吹いている。しかし、長期的なカーボンニュートラル (炭酸ガス排出実質ゼロ) 実現のために、国土が狭い日本にとって洋上風力発電の普及は必須である。そのため、政府は、2025年春に入札からの物価上昇分を売電価格に一部上乗せする仕組みに改め、洋上風力発電の促進を目指すこととする。
- 2024年12月には洋上風力発電の第3次公募が発表された。青森県日本海 (南側) はJERA、同社が出資するGPI、東北電力の企業連合、山形県遊佐町沖は丸紅、関西電力、BP、東京ガス等の企業連合が落札した。しかし、これまでの公募入札に比較して、入札企業の慎重姿勢が強まっている。世界的にも、デンマークのオーステッド、ドイツのRWE等の洋上風力発電事業者が、洋上風力発電計画の縮小を行っている。資機材価格の上昇、洋上風力発電に後ろ向きなトランプ政権の誕生は、これまで活況を呈してきた洋上風力発電にとって逆風となっている。こうした洋上風力発電市場の変貌に対して、JERAは2025年9月をめどにBPと洋上風力発電事業を統合する。しかし、脱炭素実現に向けて、発電の大きなポテンシャリティーをもつ洋上風力発電の将来性に変わりはない。洋上風力発電の設置場所も、現在の領海内からEEZ (排他的経済水域) に拡大する法案も、2025年3月に閣議決定された。
- 2021年12月の第1回は、入札する発電価格の安さを武器に、三菱商事をはじめとする企業連合が、秋田県と千葉県の3海域を独占したものの、第2回は落札のルールを、稼働開始時期、落札上限をはじめとして見直した。その結果、秋田県の海域 (31.5万キロワット) はJERA、伊藤忠商事、東北電力、Jパワー、新潟県の海域 (68.4万キロワット) は三井物産、大阪ガス、RWE、長崎県の海域 (42万キロワット) は住友商事、東京電力リニューアブルパワーが落札し、新規参入者が多様となった。
アジアにおける浮体式洋上風力発電の発電容量は、2040年に3,000万キロワットを超える。2028年までに洋上風力発電の導入量は1億8,000万キロワットに達するという見通しもある。2021年12月に実施された、第1回目の秋田県、千葉県の洋上風力発電の公募入札について、三菱商事グループは、1キロワット時当たり11円〜16円の破格の安値を提示し、風力発電も熾烈な価格競争の時代に入っている。2023年12月の公募においては、公募ルールを変更し、1発電開始時期の早さを重視し、2同一企業が落札できる発電規模に100万キロワットの上限を設定し、3売電価格が一定以下 (3円) の場合には一律の評価とした。日本は、2025年2月18日に閣議決定された新たなエネルギー基本計画において、2040年度に温室効果ガス73%削減の目標を掲げ、2040年度の電源構成における再生可能エネルギーの割合を4割〜5割に引き上げる意欲的な目標を設定している。そのためには、ペロブスカイト太陽電池、洋上風力発電は大きな期待を集めている。先進国、途上国を問わず、脱化石燃料の切り札として、従来の陸上風力発電に加えて、風況が安定した洋上風力発電の重要性が、世界的に一段と注目されている。風力発電は、技術革新、機器の大型化が行われ、風況の良い場所においては、大量の発電を行うことが可能であり、2023年末時点において、世界全体で陸上風力発電9億4,547万キロワット、洋上風力発電7,516万キロワット、合計10億2,063万キロワットに達する風力発電設備が稼働し、世界全体において年間10億トンを超える炭酸ガス排出削減効果が見込まれている。風力発電は、ライフ・サイクルで見た炭酸ガス排出量が少なく、独立した分散型電源として、離島、過疎地の電源としても利用が可能であり、夜間にも発電できる。既に、国土面積が広い中国、米国等においては、風力発電の普及が進み、今後は、日本のみならず、電力需要の伸びが著しい台湾をはじめとしたアジア、アフリカ等における風力発電の普及が期待されている。風力発電に関しては、発電量の増加、発電コストの低下を目指して、機器の大型化が行われており、洋上風力発電の風車の直径は200メートルを超え、1基当たりの発電量も1万キロワット超のものが開発されている。日本は、世界第6位の排他的経済水域 (EEZ) を誇り、洋上風力発電の今後の発展が大きく期待されている。日本は、グリーン成長戦略を掲げ、2030年までに1,000万キロワット、2040年までに浮体式を含めて3,000万キロワット〜4,500万キロワットの洋上風力発電を整備する目標を掲げている。しかし、デンマークの沖合いと異なり、日本の場合には遠浅の海域が少なく、今後は着床式から、浮体式洋上風力発電の技術開発が期待され、2018年12月には、洋上風力促進法 (再生可能エネルギー海域利用法) が成立し、最長30年間、海域を利用できる規制緩和が行われ、洋上風力発電建設用のSEPの建造も行われている。三菱商事、戸田建設、ENEOS、関西電力等が、洋上風力発電事業者となっている。長期的にも、日本における2030年までの経済波及効果は、15兆円、9万人の雇用創出が見込まれている。台湾も2030年までに1,000万キロワットの洋上風力発電を計画し、世界の洋上風力発電は、2020年の3,529万キロワットから、2030年には2億3,400万キロワット (市場規模937億ドル) 、2040年には5億6,200万キロワット、2050年には14億キロワットに達することが期待されている。EU (欧州連合) は2050年の洋上風力発電を3億キロワット、陸上風力発電を7億キロワットとする意欲的な目標を表明した。世界的に陸上風力発電・洋上風力発電の拡大が見込まれ、2030年には21億1,000万キロワットと、世界の発電能力の2割を占め、2050年には60億キロワットと、世界の風力発電市場は、200万人を超える雇用を創出すると予測されている。風力発電は、太陽光発電と異なり、風車、軸受け、変速機、発電機をはじめとした2万点の部品から構成されるモノづくりの集積であり、風車に用いる炭素繊維をはじめとして、日本企業が素材・部品の強みを持っている。しかし、世界最大の風力発電国は、米国を抜いて中国となり、中国は国内メーカーの育成に力を入れている。中国企業、インド企業の台頭、中国企業のシェアの上昇とともに、米中対立が強まり、先行する欧米企業の洋上風力発電事業者との、風力発電における発電効率向上、価格競争が熾烈となっている。日本は、風力発電事業から撤退する企業もあり、時間がかかる環境アセスメントの規制、立地の制約、送電系統の空き容量の制約、漁業権等から、期待されていたほど風力発電の開発が従来は行われていなかった。しかし、インフラストラクチャー整備の主役として、年間1兆円を超える日本の風力発電市場の成長への期待がかけられている。陸上風力発電、洋上風力発電が、日本および世界において、どのように成長するのか。洋上風力発電の建設コストが上昇する状況において、米国、英国においては、洋上風力発電プロジェクトを中止する動きもでている。これから洋上風力発電に力を入れる企業にとっての留意点はなにか。トランプ政権が誕生した2025年における日本企業のとるべき事業戦略について分かりやすく解説する。
- 世界における風力発電の現状と今後の動き
- 日本における風力発電の現状と今後の可能性
- 再生可能エネルギーの一つとしての風力発電のメリット
- 再生可能エネルギーとしての風力発電のデメリット
- 世界における風力発電の資源量
- 日本における風力発電の資源量
- 風力発電における技術革新の最新動向
- 陸上風力発電の最新動向と今後の可能性
- 洋上風力発電の最新動向と今後の可能性
- 洋上風力発電の市場規模
- 中国における風力発電の現状と今後の動向
- 米国における風力発電の現状と今後の動向
- 途上国における風力発電の今後の可能性
- 風力発電に関する公募入札の今後の見通し
- 小型風力発電事業の現状と今後の動き
- 世界における風力発電の市場規模
- 日本における風力発電の市場規模
- 2025年の風力発電事業における日本企業のとるべき最適な事業戦略
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