PV・MA・マーケティング部門における医療情報データ (RWD) 活用の実践

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しばらくの間は個人情報保護の視点から慎重論も多かった医療情報データ (リアルワールドデータ、以下RWD) であるが、最近では情報を保護しつつ積極的に活用すべきという機運が高まってきている。2023年6月9日に発行された通知「医薬品安全性監視における医療情報データベースの活用とその事例」では、他剤との比較を前提とした製造販売後DB調査以外でのファーマコビジランス (PV) 領域での活用事例が行政サイドから紹介され、行政サイドからもRWDの民間活用へ向けての期待がみてとれる。  また、只今は次世代医療基盤法の改正を受け1億2000万人という世界最大規模のレセプトデータ (ナショナル・データベース、以下NDB) と種々の公的DBとをリンケージさせたデータについても整備の議論が進んでいる。こうしたデータはこれまで生物統計や薬剤疫学、データサイエンティストが使うものと認識されていたが、むしろ医療情報に関わる全ての人が無視できない、決して「データには触ったことがない」まま任務を全うすることが難しくなったと言えるだろう。こうした状況の人にあっては少なくとも「データ分析を担当する人と会話が成立する」レベルのスキルが要求される。

 本講習会では主に製薬産業の“市販後”とされるところのマーケティング部門、メディカルアフェアーズ (MA) 部門、ファーマコビジランス (PV) 部門の実務に焦点をあて、規制要件や社会ニーズの変化を共有しつつ実際に医療データに触れてみるといった講義+演習を行います。  「医薬品安全性監視における医療情報データベースの活用とその事例」で紹介されているような簡易集計や時系列分析などは、疫学や生物統計の専門スキルを必須としなくても対応可能なものです。  実際にデータを作ってみたり、プログラミング言語Rに触れてみたりすることで医療データを使うことの肌感覚を習得します。これまでプログラミングに触れたことがないといった人が、これから自学してデータ分析のスキルを身に着ける機会を提供します。  昨今では込み入った解析については生成AIが伴走できるようになっており、プログラムの基礎スキルまで獲得すれば複雑な解析までの距離は思いのほか縮まっています。裏を返せばちょっとしたプログラミングの入り口に入ったことのある人と無い人とのデータ分析スキルは各段に広がってしまう状況にあります。そこで本研修では時代に遅れをとらないために、本格的なプログラミングやデータ分析実践の入り口までの水先案内をしたいと思っています。

  1. RWD活用の潮流
    1. 薬害再発防止のため、をきっかけに
    2. MID-NETプロジェクトと行政スタンスの変化
    3. 薬事への活用として登場した「製造販売後DB調査」
    4. 個人情報保護の“国家的”整備と法制化
    5. プレイヤー・パートナーとしての民間DB会社の登場
    6. 次世代医療基盤法と認定匿名加工事業
    7. 次世代医療基盤法の改正と認定仮名加工
    8. NDBの民間利用機運の高まりと整備
  2. ビジネスとしてのRWD活用スキル
    1. 勘と経験に依存していたビジネスの意思決定
    2. 根拠に基づく医療 (EBM) 思想と“エビデンスベイスド”
    3. 誰かに任せきりのデータ分析で困ること
    4. 論文の読了力とデータ分析力との関係
    5. 増え続ける「データ解析用語」とその理解力の要求
    6. 治験と異なる観察研究特有の落とし穴 (バイアス)
    7. 観察研究の中でRWD活用特有の落とし穴 (バイアス)
    8. 得られたデータ分析結果を洞察するための実践力
  3. データに触れる【演習】
    1. Excelの乱数関数を使って症例データを作成する
    2. CSV (カンマ区切り) データを作成する
    3. フリーワードのデータを構造化データにしてみる
    4. 医療データを使った四則演算
    5. 医療情報の要約統計量を算出する
    6. 円グラフとヒストグラムの描画
    7. 項目間の相関図
    8. 時系列グラフの描画
  4. 統計学基礎スキルのおさらい【含:演習】
    1. 代表値としての中央値と幾何平均
    2. 分布という概念の整理
    3. 標準偏差 (S.D.) と標準誤差 (S.E.)
    4. 点推定と区間推定
    5. 有意差検定とP値
    6. 回帰分析
    7. 患者背景を補正する種々の方法論
    8. AI基礎学としての教師あり学習と教師なし学習
  5. プログラミングの基礎【演習】
    1. 無料プログラミング言語「R」について
    2. Rをダウンロードする
    3. R-STUDIOをダウンロードする
    4. 作ったプログラミングを保存する場所を設定する
    5. 分析用の医療データを保存する場所を設定する
    6. Rを使った四則演算
    7. Rに取り込んだデータの要約統計量を求める
    8. Rに取り込んだデータのグラフ化
  6. 薬剤疫学の基礎
    1. 介入研究と非介入研究
    2. 仮説生成と仮説検証、そして仮説強化
    3. 選択バイアスとその対比策
    4. 適用の交絡という観察研究の“最重要課題”
    5. 情報バイアスと誤分類
    6. リスク比とオッズ比
    7. ハザード比と競合リスク
    8. 得られた結果の一般化可能性
  7. RWD活用のユースケースとこれから
    1. 売り上げの予測→時系列分析
    2. リスク最小化活動の成否検証→時系列分析
    3. 集積された副作用報告症例からの疑念→簡易集計
    4. 薬価算定根拠としての容態変化→リンケージデータの集計
    5. フレイル・認知症の進行監視→ウェラブル由来情報
    6. プレシジョン・メディスン→ゲノム関連情報
    7. 社会的処方→生活データ、経済データとのリンケージ
    8. ウェルビーイング市場の拡大→ライフコース疫学とRWD拡張

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