ファージセラピーの最新開発動向と次世代耐性菌対策への展望

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第1部 多剤耐性菌感染症に対するファージ療法の応用開発

(2025年1月15日 10:00〜12:00)

 サルファ剤、ペニシリンの発見をきっかけとして、これまで非常に多くの抗菌薬が開発されてきました。現在、それぞれの抗菌薬の特徴を活かし、適宜選択しながら使用されています。これからも抗菌薬は感染症治療の中心的な役割を担うものと考えられる一方で、耐性菌の出現は避けることはできない問題です。現在既に多剤耐性菌は世界的な脅威となっていることから、抗菌薬以外の治療法の開発について多くの国で進められています。中でも細菌に感染するウイルスであるバクテリオファージ (ファージ) は、抗菌薬とは全く異なる殺菌機構により殺菌するため、多剤耐性菌に対しても有効であることが示されています。そのため、ファージを利用した療法 (ファージ療法) は現在、最も期待されている治療法となっており、世界各国で研究が進められた結果、治療成功例の報告が増えています。しかしその一方で、まだ課題も多く残されています。そして、それらの解決に向けた研究も行われています。  本セミナーでは、多剤耐性菌、そしてそれらが引き起こす感染症について説明し、ファージ療法の開発について現在海外で進められている症例を示しながら紹介します。

  1. 多剤耐性菌感染症をとりまく現状と今後の動向
    1. 多剤耐性菌の種類とそれに対する取り組み
    2. 多剤耐性菌による感染症の実態
  2. ファージ療法とは
    1. ファージ療法の今昔
    2. ファージが細菌を殺菌するしくみ
    3. ファージと抗菌薬の違い
    4. 治療用ファージにもとめられること
    5. ファージカクテルについて
  3. 多剤耐性菌感染症とファージ療法
    1. 「個別化」と「非個別化」のファージ療法
    2. 世界におけるファージ療法の実施例
  4. ファージ療法の課題と展望
    1. 抗菌薬治療の限界とファージ療法に期待されること
    2. ファージ療法による治療失敗例から学ぶ
    3. ファージ療法を実施するまでの課題

第2部 ファージセラピーの最新開発動向と展望

(2025年1月15日 12:45〜14:45)

 ファージは細菌に感染するウイルスです。ファージは抗菌薬とは異なる殺菌機序により、標的細菌を選択的に殺菌することができます。この特性を利用して薬剤耐性細菌感染症、難治性細菌感染症、マイクロバイオーム関連疾患などを治療しようという「ファージセラピー」が注目されています。近年、野生型 (天然) のファージに加えて、改変型ファージやファージが持つ溶菌酵素を使ったファージセラピー研究と臨床試験が進んでおり、社会実装の可能性が急速に高まっています。  本セミナーでは、最新のファージセラピーの研究開発動向、進行中の臨床試験の内容を中心にご紹介します。また、私たちの取り組みと今後の展望についてもご紹介できれば幸いです。

第3部 宿主細菌のファージ耐性化機構とそれを見据えたファージセラピーについて

(2025年1月15日 15:00〜17:00)

 抗生物質に耐性を獲得した薬剤耐性菌は着実に広がっており、このまま何も対処しないと2050年にはガンの死亡者を超えて年間に1000万人以上の死者が出ると予測されている。その対策の切り札として細菌に感染するウイルスであるバクテリオファージ (ファージ) を用いたファージセラピーが注目されている。ファージセラピーは抗生物質より古くから細菌感染症治療に用いられ、特に東欧諸国では盛んに行われてきた治療法である。近年、多剤耐性Acinetobacter baumanniiの感染による危篤状態からファージセラピーにより復帰したパターソン症例 (Antimicrob Agents Chemother. 2017 61 (10) :e00954-17) や、嚢胞性繊維症 (cystic fibrosis) における遺伝子改変ファージの応用例 (Nature Medicine 25, 730-733) などが報告され、世界中でファージ製剤の開発や実用化の動きが活発に行われている。  ファージの実用化においては様々な課題があるが、特に細菌のファージ耐性化に対して、その解決策をどのように考えるか、そのためにはファージ耐性化メカニズムの理解が必要である。遺伝子の変異を伴う細菌のファージ耐性化は、そのトレードオフにより我々にとって有利となる細菌の表現系の変化を引き起こすことが知られている (薬剤感受性の亢進や病原性の低減など) 。本発表では、ファージセラピーの現状と実用化への様々な課題、そして我々が行った犬の難治性細菌感染症への臨床試験の成功結果を通して、ファージセラピーの臨床応用の利点と課題について解説していく予定である。ファージセラピーの実用化に向けて、細菌とファージの多様性、そして感染メカニズムの深い理解、さらにどのような疾患へ応用して行くか、そのような点を考慮しながら臨床試験を積み重ねて行くことが必要であると考えている。細菌とファージの関係性は、お互いの長い進化の中で磨き抜いてきた各細菌種とそのファージの固有のものであり、それを丁寧に紐解いていくことがファージセラピーの実現の鍵であると考えている。

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