機材表面で生体の特異的反応の検出は古くからバイオセンサー、免疫ラテックス診断、酵素免疫測定法 (EIA) やウエスタンブロット法だけでなく、一分子計測やプロテインアレイ解析法など様々な分野で利用され、ますます重要になりつつある。
このようなバイオインターフェース構築のためには、リガンドとの特異的相互作用以外の物理的な生体成分の非特異吸着を極限まで低下することが重要である。
これまで非特異吸着を抑制するためにはアルブミンやカゼイン、ゼラチンのようなタンパク質、デキストランのような多糖など天然高分子が用いられてきた。最近ではその不十分な非特異吸着抑制効果のためだけでなく、生体由来成分による表面処理の問題をも含め、合成材料による表面処理に注目が集まってきている。
特に水溶性高分子としてポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンやポリエチレングリコールなど、様々な材料が利用されてきた。最近ではポリ (メタクリル酸2-ホスホリルコリンエチル) (PMPC) やポリ (アクリル酸 2-メトキシエチル) などの新しく設計された材料も広く検討されてきている。
ポリエチレングリコールはこの中でも古くから研究されている表面処理剤である。PEGによる機材修飾はPEGの片末端を機材表面に固定し、他末端が自由に運動できる固定化が一般的である。「Polymer brush」、あるいは「Tethered chain」などと命名されるように、水中では表面が、「髪の毛」のはえた頭ような状態がイメージされる。
表面にPEGブラシを構築することにより、界面エネルギーが低下し、運動性が向上する。さらに排除体積効果の増大等の影響により、生体分子の非特異的吸着が抑制される。
本稿では最近のPEG表面に関する設計、構築とアプリケーションに関してまとめる。
- 生体適合性とは
- 生体液と生体反応
- 材料表面との接触
- 生体適合性表面の改質とは
- 物理化学的手法
- 材料の合成や表面処理法、その特徴と生体適合性に関して概説する
- ハイブリッド界面の構築
- 新しいアプローチ
- PEG処理を例にした表面構築手法との考え方
- 高性能表面を作製する素材、ポリエチレングリコール
- 両末端に異なる官能基を定量的に有するポリエチレングリコールの設計が重要であり、ヘテロ二官能性PEGの合成を紹介する
- バイオインターフェースの構築
- 材料を生体内および生体環境下で利用する場合、その界面を精密設計することが重要である
- 鎖長効果と埋め草処理
- ポリエチレングリコールブラシを利用する場合、その密度と鎖長を制御することが求められる
***埋め草効果が高い生体適合性表面を与える
- 多点結合によるPEGブラシの構築
- 固体表面にPEGを固定する場合、一点よりも多点で結合させることが極めて有用である
- PEG/抗体ハイブリッド界面の構築
- 機材表面でのPEG密生層の構築と抗体固定法
~PEGブラシと抗体との共固定表面での振る舞いを説明~
- 【タンパク質ハイブリッド密生層の構築】
表面に抗体を固定した後、高密度PEGブラシを固定することにより
非特異吸着が抑制するだけでなく、抗体自身の活性が向上する。そのメカニズムを解説。
- 【ソフトランディング現象 】
表面への抗体固定の際、抗体がソフトランディングする条件で抗体活性が向上する。
抗体の配向に起因するこの方法のメカニズムを解説。
- 【表面での固定化抗体の振る舞い】
抗体/高密度PEGブラシハイブリッド表面における抗体活性の経時変化を確認。
PEG密度が高いほど活性低下が抑制される。
- アプタマー表面での配向とセンシング能
- 【PEG/オリゴDNAハイブリッド界面の構築】
PEG-b-ポリアミンブロック共重合体を利用した表面へのオリゴDNAとPEGブラシの共固定法を紹介。
DNAの表面での配向とセンシング能の相関を概説。
- 【PEG/アプタマーハイブリッド界面の構築】
PEG-b-ポリアミンブロック共重合体を利用した表面へのアプタマーとPEGブラシの共固定法を紹介。
アプタマーの表面での配向とセンシング能の相関を概説。
- 表層にメルカプト基を有する Mixed-PEG 修飾金表面の構築
- 【タンパク質を固定化した MeO-PEG-SH (2k) / SH-PEG-SH (5k) 表面の機能評価】
様々な生体分子を固定するツールとしてメルカプト基を表層に有する高密度PEGブラシの設計法を紹介。
- ナノ粒子設計
- これら表面構築法はナノ粒子表面処理にも適用が可能である。
バイオナノ粒子の設計と評価に関して概説する。
- 終わりに
- これら表面処理の特徴と求められる性能に関して解説する。