多くの高分子材料はガラス転移を示し、冷却によってガラス状態となる。高分子のガラス状態は熱力学的な平衡になっていない凍結状態であり、液体らしい性質、固体らしい性質の両方が現れる。これを示差走査熱量計 (DSC) の方法で観測すると冷却時の条件 (温度の履歴で表される) に応じて著しく異なる結果が得られる。とりわけ比熱データ (Cp.カーブ) で測定結果を表わしたとき、試料のサイズ、形態、温度履歴によってガラス転移温度付近で安定したベースラインが得られないなど、しばしばデータ解釈において難題が生ずる。
本セミナーでは、こうした難題について「ガラス転移は緩和現象の一つ」という観点から取組み、系統的な解析を可能とする実験手法をとり扱う。さらに高分子物理で汎用される数学モデルを基盤としたモデル計算によってCp.カーブを再現する手法について解説する。合わせて、冷却の過程で変形を受けた試料についてCp.カーブの再現を明示して、この分野に関する今後の展望を示す。
なお、スライドで示す研究データは、おおむねシアノビフェニルのくし形ポリマーとポリスチレンに限られている。汎用プラスチックスを広範囲に網羅したものではない事、留意されたい。
- 緒言 – 高分子のガラス転移
- 高分子とは何か、低分子に見られない性質
- 高分子の定義
- 重合度と分子量の分布
- 高分子の集合状態と性質
- ガラス状態
- 高分子の熱的振る舞い
- 過冷却状態と仮想温度
- ゴム状態とガラス状態
- 高分子のガラス転移温度 (Tg)
- 示差走査熱量測定 (DSC)
- DSC曲線とその表示方法.
- 基線 (ベースライン) の引き方とピーク面積
- DSC.データからCp.データへの変換法
- ポリスチレンのエンタルピー緩和
- 温度履歴と構造緩和、エンタルピー緩和
- 代表的な三種の温度履歴
- 緩和したエンタルピーとその平坦値
- 緩和関数の算出と換算変数による解析
- 他の高分子との比較
- 重ね合わせの原理
- ガラス転移と粘弾性
- 粘弾性の温度依存性と
- 時間 – 温度換算則とWLF.式
- くし形ポリマーのエンタルピー緩和
- 温度履歴とエンタルピー緩和
- エンタルピー (内部エネルギー) の減衰
- 活性化エネルギースペクトルによる解釈
- ポリスチレンのエンタルピー緩和と緩和を示す数学モデル
- 数学モデルと緩和量の予測
- Cp.データのモデル計算の詳細解説
- 計算データと実測データの比較ならびにデータフィッティング
- モデルパラメータとCp.データの関係
- 適正なモデル計算のために
- ポリスチレンの物理エージングとエンタルピー緩和
- 冷却と延伸による物理エージング
- 延伸試料のDSC測定
- 延伸とTg の関係
- 結言 – エンタルピー緩和の研究から学べること
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