現在、産官学問わず、物質開発研究の第一線において、様々な計算技術が活用されている。この講座では、計算機を活用した機能性分子開発 (In – Silico機能物質開発) を念頭において、その基盤技術となるインフォマティクス手法、計算シミュレーション手法、物質探索手法、物質データベース、などについて解説する。計算機利用による物質開発で期待されるのは、 (1) 探索する化学空間の把握/拡張/絞り込み、 (2) 研究者 (人間) では思いもよらない物質の発見、 (3) 物性や反応性の定量的予測、 (4) 具体的な有望物質候補の提案/絞り込み、 (5) 物質設計や物質探索のための理論的概念の導出、などである。これらの情報処理で基盤となるのは「物質を如何に記述するか?」である。この観点から、本講座では、特に分子記述子に注目し、従来のケモインフォマティクスや医薬品/農薬探索などで用いられる定量的構造物性相関 (QSAR) 手法、そして講師が最近提唱している電子状態インフォマティクスに基づく概念や実際の数値化手法について、実際の計算のノウハウを解説しながら議論する。
最近、AI技術と計算シミュレーション技術の融合によって、計算機上で実験を行う「サイバー物質科学」が正に現実的なものとなってきた。その現状とフィジカル物質科学 (現実空間での実験) との連携を含め、今後のIn – Silico機能物質開発の技術課題についても議論したい。
- はじめに
- 物質をコンピュータで表現する
- 分子構造の記述
- 分子フィンガープリント
- 様々な分子記述子
- QSARの分子表現
- 物質データベースを活用する
- 計算シミュレーションで数値化する
- エネルギー変化を記述する
- 分子の応答を記述する
- 電子状態計算による数値的評価技術
- 機械学習アルゴリズムを活用する
- 電子状態インフォマティクスの応用事例
- 計算機上での物質設計と物質探索
- サイバー物質科学の基盤技術
- サイバー物質科学とフィジカル物質科学の連携
- まとめと将来展望
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