本セミナーでは、誰も教えてくれない「座りの科学」を基礎からじっくり学んでいただきます。
自動車用シート、椅子開発に関わる方はぜひご参加下さい。
若者の自動車離れ、高齢ドライバーによる交通事故、AI (人工知能) 自動車、地球温暖化など人間にとって便利であった自動車が正と負の部分を表出する時代になった。時代が変わっても、自動車の運転姿勢や乗車姿勢は、座姿勢以外には考えられない。即ち床に足が着き、臀部・下腿部・背面・後頭部がシートに接した座姿勢である。即ち、シートは人体の各部位をうまく支持する役割を備えていなければならない。 近年、量産されるいす・シート設計の多くはCADによるものであり、残念ながら手書きによる原寸図の姿を消してしまった。いす・シートは建築・室内・人間工学の分野では「人体系家具」として扱われ、この原寸図により寸法や角度が検討されてきた。この原寸図における1mmの寸法、1°の角度が座り姿勢や座り心地に大きな影響を与えることは原寸図をひいてみないと分かりにくい。現在では、CADによる製図に変わってしまったため、この1mm、1°の意味は実感として伝わってこない。 その結果、設計段階から人体といす・シートとの関係が希薄になり、完成品が身体に合わない、違和感があるなど座り心地のよさから遠ざかる座具の生産に繋がってしまうのは避けられないと考えてしまう。 知人のいすデザイナーI氏は、人間工学をマスターしたデザイナーで未だに手書きによるいす設計を行っている。 (1) 人間工学の学術的習得、 (2) 原寸図によるいす製作へとアナログ的なアプローチが完成度の高いいすづくりに至っているものと考えられる。その結果、彼の作品には常に合格点がつき、いす・シートに関わる人達は、この意味を忘れてはならない。 仮に量産シートであっても、彼の様にものづくり環境を構築していくならば、合格点に近いシートづくりが可能となる筈である。これは、50年弱に及ぶ「座・姿勢研究」の経験から明言できる。 日本のいす生活の歴史は極めて短い。座り方も選び方も、そして造り方も誰も教えてくれない。それ故に日本におけるいす・シートづくりは、視覚的に評価されても心地よさを備えた座具が多く誕生しないのは当然のことと言わざるを得ない。 いま思うに文科省が子供たちに座ることの意味と座り方を教えていたならば、視力の低下防止、猫背姿勢の回避などが健康面において多くが期待でき、日常生活ではいすの選び方や座り方を正しく理解できていたであろうと残念でならない。 そこで、欧米に劣らないいす・シートの製作を目標に「いすづくり」や「いす使い」に不可欠となる基礎的知識をお伝えすることができるならば、と考えて本セミナーを引き受けることにした。 AI自動運転に多くの関心と期待がもたれる時代になった一方で、日常生活での着座姿勢は、人間の寿命を短くするという研究結果が発表され、このことが家具メーカーに大きく影響し、座り姿勢が悪もの扱いされている一面がみられる。 人体の骨格構造を姿勢と重力の観点からみると、座姿勢は人体に無理を強いる姿勢であることは明白である。このことを生活者やメーカー、マスコミなどに繰り返し伝えてきたが、残念ながらいす・シートづくりの現場にその声が届かないのは実に残念なことである。 いす・シートの研究に関わり50年近くになる。大学教員退職後の終活の中で手元にある資料を整理しているが、シートセミナーの講師を1989年から6社において合計24回お引き受けしてきたことが分かった。多い時は1社のセミナーを年間2回開催されたこともある。これらのセミナーにご参加をいただいた方々の中にはシートデザインやシート研究の第一人者として活躍される方が誕生し、講師としての冥利に尽きる。 本セミナーでは、これまでの経験をもとに「シートづくりの基礎」としての知識をお伝えすることで、座り心地向上のシートづくりやAI自動車運転の実用化に伴う新たなシートづくりの一助となることを願っている。コロナ禍の中で、移動手段が公共交通機関から自動車へ移行するなど、自動車の優位性が評価されている実情を鑑み、更なるシートの機能性向上に向けて役立つならば幸いである。
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