世界の人口は、2050年に97億人に達すると試算されている。人類が食べる肉の量も、現在の1.8倍に増えるという。また、畜産だけでは、増加する需要に応えることが難しいと言われている。ゆえに、植物由来の細胞や動物の幹細胞を培養して食肉そっくりの味がする食品を作り出す「代替肉」が熱い視線を集めている。 現在、私たちが開発に取り組んでいる三次元組織の一つに、「培養ステーキ肉」があります。私たちが普段食べている肉はウシやブタの筋肉です。この肉を、組織工学の技術を利用して人工的に作ろうという試みが「培養肉」です。具体的には、家畜から採取した少量の筋細胞を細胞培養技術で何倍にも増殖させ、それらを用いて本物の肉に似せた大きな筋組織を作ることを目指しています。通常、食肉を生産するには長い期間家畜を飼育しなければならず、広い土地や大量の水、エサとなる穀物が必要です。このような従来の生産方法は地球環境への負荷が大きいとされ、近い将来、増え続ける人口に対して食肉を充分に供給できなくなる可能性が危惧されています。「培養肉」は、細胞を培養して増殖させる段階を経ることで、元の動物から得られるよりも多くの肉を生産することができる、環境に優しい食肉生産方法といえます。ただし、現在までにミンチ肉のような小さな組織の培養肉の構築可能性は示されていますが、ステーキ肉のような分厚い組織を作ることは困難で、大きなチャレンジです。なぜなら、血管のない組織は分厚くすると内部へ酸素や栄養を供給できず、細胞が死んでしまうからです。また、ただ筋細胞を集合させるだけでは、本物の筋肉と同じような収縮運動可能な成熟した筋組織はできません。私たちは、これまでに培ってきた三次元組織構築技術を駆使して、世界に先んじて成熟した大型筋組織 (培養ステーキ肉) を構築することを目指しており、すでにサイコロステーキ状の培養肉の開発に成功しています。 講師は「培養肉」研究の第一人者である。培養食肉の最新技術と今後の展望について解説する。
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