水は、4 ℃で密度が最大になる、結晶化すると体積が増えるなど、他の分子性液体には見られない極めて特異な性質を示す。このような異常性は古くはレントゲンの時代から認識され、それ以来1世紀以上にわたりその起源をめぐり論争が続いてきた。最近我々は、その起源が、液体中に局所的に形成される正4面体的構造とより乱れた構造という2種類の構造の動的な共存にあることを示した。また、水にはこのような2状態の協同的な生成に起因した液体・液体転移が存在する可能性が高いものの、その臨界性は、現実の液体状態の水の物性にはほとんど影響を与えないことも明らかにした。この2状態性という単純液体にはない自由度こそが、様々な環境因子に応じてその性質を変幻自在に変えるという、水の特異な性質の起源であると言うことができる。この性質を理解することで、水の性質を様々な環境因子 (例えば、塩の添加) などにより、操ることが可能となると期待される。
- はじめに
- 水の異常性とは
- 相図の異常
- 密度異常
- 比熱異常
- 等温圧縮率異常
- 粘性異常
- 水の研究の歴史
- 3人のノーベル賞学者の論争
- 何が難しいのか
- 水の異常性を説明する3つのモデル
- 説1:構造の連続的変化
- 説2:気体・液体転移のなごり
- 説3:水に存在する二つの液体の揺らぎ
- 説4:水に二つの特徴的構造存在
- 水の構造
- 水素結合
- 水素結合が好む構造:正四面体構造
- 二状態モデルとは
- 二状態モデルによる異常性の説明
- 水の構造指標
- 水の二状態性の実験的証拠
- 水のダイナミクス
- 水の構造とダイナミクスの関係
- 階層的二状態モデル
- Stokes – Einstein則の破れ
- 粘性の温度・圧力依存性
- 水のガラス転移
- 水に二つの液体はあるか
- シミュレーションによる水の第二臨界点の探索
- 実験によるアプローチ
- 水の結晶化
- 結晶化の基礎
- 新しい結晶化の考え方
- 結晶化のしやすさは何が決めるのか
- 氷はどのようにしてできるのか
- 水とテトラヒドラル液体
- テトラヒドラル液体とは
- 人類とテトラヒドラル液体
- 水とシリコン,ゲルマニウムとの関係
- 水とシリカの類似性/違い
- 水のしなやかさの起源と制御
- 水の性質を操るには
- 氷になりやすさを操るには
- まとめ
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