いかなる製品も開発から実生産までに知られざる秘話や経歴を持っている。改正GMP省令で要求されている品質リスクマネジメント (QRM) や、体系的なアプローチ (QbD) は、その導入検討前に得られる開発段階の小スケールの検討時のデータ (compatibility study、瀬踏み試験、feasibility studyなど) や、また技術移転時の初回試験製造のデータなど、実務担当者の実験ノートに残る基礎的/技術的知見や考察が重要であり、そこには、粉体特性や粉体物性の暗黙知、スケールアップ/ダウンの難易度、単位操作の制御度、さらに設備投資の要否など、QRMやQbDで重要となるリスク要因が潜在している。
当講座では、上記のような初期、または初回の試行段階で予測的あるいは経験的に得られる情報の中から、潜在的なリスクを鋭く洗い出し、効率的かつ実践的な、いわば「メリハリ」をつけたリスクアセスメントを解説する。
- ステップ1:潜在的リスクの洗い出し方
- 開発中の製品 (承認前) の場合は、プレフォーミュレーションをはじめ、幾多の小スケール実験データから、また市販済み製品 (技術移管) の場合は、エスタブリッシュされた製造方法に加えて、開発経緯、製造の変遷などを通して得られた記録から、潜在的リスクを汲み取ることが重要である。
- チェックリストの活用
- 類似製品の実施例の活用
- 具体例
- Compatibility studyの例 (成分間の配合性、製造機器の材質・直接容器の材質スクリーニング)
- Feasibility studyの例 (試作とクイック加速安定性試験)
- 粉体特性に起因するリスク因子の例 (APIの吸湿性、API、副原料の粒度分布と混合性)
- 粉体物性に起因するリスク因子の例 (賦形剤のグレードによる圧縮特性、APIの結晶形と溶出プロファイル)
- 単位操作/篩過工程に起因する例 (機差とスクリーン目開きと混合性)
- 単位操作/混合工程に起因する例 (投入方法、投入手順と混合性)
- 単位操作/造粒工程に起因する例 (機差と顆粒物性と圧縮成形)
- 単位操作/整粒工程に起因する例 (機差とスクリーン目開きと整粒度)
- 単位操作/乾燥工程に起因する例 (機差と圧縮成形)
- 単位操作/打錠工程に起因する例 (顆粒物性と圧縮成形)
- 単位操作/打錠工程に起因する例 (顆粒物性と打錠障害)
- 単位操作/打錠工程に起因する例 (機差と圧縮成形と溶出プロファイル)
- ステップ2:リスク分析、リスク評価
- 固形製剤のリスク分析の例 (FMEA法)
- 工程
- リスク因子
- リスク因子に影響を受ける品質特性
- 管理方法
- リスク低減化
- 重大性・確率・検出性・受容率
- ステップ3: リスクアセスメント、リスクマネジメントのベネフィット
- QRMは薬害防止や不適合バッチ出荷防止を目的とした規制対象の一環として義務化されてきた負担と捉えられてきた側面があるが、製造科学、とりわけ工程の理解を深めることによる生産性向上、効率向上のツールとして取り組む必要がある。
- 開発の一環としての品質リスクマネジメント
- 施設・設備・ユーティリティーの適格性評価
- 生産バリデーションの品質リスクマネジメント
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