演者は旧職の製薬企業探索系研究所において、日本国内では先駆けて電子実験ノート (ELN) および研究機器データ管理システム (SDMS) を導入し、先進的な研究情報管理体制の構築と運用を目指した。導入検討や運用実績での経験に基づき、研究情報を扱う形態や意識および優先順位が研究分野や部門によって異なることを認識してきた。それらをふまえて情報活用を進めるうえでの傾向や注意点を把握し、運用や展開を進めるための様々な工夫を重ねてきた。現職においては、昨今の急激な環境変化に合わせ、多岐にわたる業種の研究機関において、それぞれの事情に即した環境整備の支援を行っている。
本講演では、研究や生産活動における情報管理体制に求められる姿や、情報保全の重要性や電子化することの必要性や意義を再認識するところから始める。実際の電子的ツールを展開や活用してきた実績に基づき、電子的ツールのもつ特徴や表面的に見える利点だけでなく、実践してみないとわからない紙運用との根本的な違いを紹介する。研究部門の違いによる業務における情報の取扱い方の差に基づき、電子管理に否定的な部門へ展開した実績や、AIの活用を見据えての情報管理における考え方の改革の必要性にも触れる。情報管理体制を紙運用から電子環境に移行することによって得られるものは情報活用の質的変化だけでなく研究不正防止環境を構築することにもつながることであり、まさにデジタルトランスフォーメーションであることを明確にする。そのうえで、環境構築において想定される課題とそれへの対策等も紹介する。
- 情報とは
- 研究・生産情報を管理する必要性
- 情報を管理する目的
- 研究記録の保全がなぜ重要か
- 研究不正を防止するには
- 情報管理における電子化の重要性
- 昨今の情報管理における課題と要求される水準
- 管理手順の電子化への遷移の必然性と重要性
- 電子化によるData Integrity対応
- 電子化を検討する際の留意点
- 電子情報管理システムの種類
- 電子情報管理システムの種類と位置付け
- 将来の電子情報管理システムの展望
- 電子署名・監査証跡の利点と課題
- 電子署名や監査証跡を記録することによる利点と課題
- 電子署名の構成の差に基づくシステム内で起こる課題と対応策
- 特許の観点での電子署名の位置づけ
- 電子実験ノート展開の歴史
- 電子実験ノート発生の経緯
- 展開を加速させた要因
- 昨今の動向
- 化学系電子実験ノートの使われ方
- 化学系研究者の電子実験ノートの使い方
- 当該研究者に歓迎される各種有用機能
- 社内化合物法規制照合機能
- 実際の運用事例
- 分析業務、品質管理、安全性試験部門にとっての試験情報管理システム
- 業務の形態や背景の違いによる活用における利点
- 当該部門における情報管理環境の動向
- 特性評価系研究者にとっての電子実験ノート
- 展開に課題を生じさせる背景の活動形態別解析
- 活用に向けた対策
- 測定機器データの保全管理
- 各種測定機器が発行するデータの集中管理の方策
- システム化による利点
- 導入障壁の解決事例
- 導入後の作業者の意識変化
- クラウド系システムの出現
- クラウド系システムの特徴
- クラウド系システムの限界
- クラウドがもたらす新しい環境
- 電子的な情報管理体制がもたらすもの
- 電子管理体制だからこそ実現できる新環境
- ドキュメントカテゴリーに応じたプラットフォーム間連携を意識した環境
- AIの活用を見据えた電子情報管理
- AI研究を活用する利点
- AI研究を進めるための情報収集ツールのありかた
- 電子情報管理システムの導入・展開における課題と対応策
- 要求仕様の設定
- プロジェクトを進める体制
- 役割分担
- 標準化/共通化
- 運用体制における監視の重要性
- 紙と電子の違いに対する理解 ⑦電子管理体制構築におけるよくある落とし穴