2019年に入り、世界的に燃料電池が見直されるようになってきている。これまで次世代環境対応車の本命は、電気自動車一辺倒という見方が根強く、日本においてすら、水素を燃料とする「究極のエコカー」燃料電池車は電気自動車に対してガラパゴス化するとされ、世界の大手自動車企業は電気自動車 (EV) の開発に舵を切っていた。 しかし、電気自動車の核となるリチウム・イオン電池と比較して、燃料電池は、①単位重量当りの大きな電気容量、②長い航続距離、③3分程度の短い充填時間等といったメリットがあり、米国ではフォーク・リフトやトラック、またドイツでは鉄道などに適用されようとしている。日本においては長期的な低炭素社会、水素社会構築を見据え、東京オリンピックに向けて燃料電池車の意欲的な普及目標を掲げ補助金をはじめとして促進政策を行っているものの、欧米諸国においては日本よりも熱心な注目が集まっていると言えそうだ。中国でも電気自動車に加えて、燃料電池車の開発に注力しつつある。 2014年12月15日には世界最初の量産型燃料電池車MIRAI (ミライ) をトヨタ自動車が発売し、2016年3月10日にはホンダがクラリティーFCを発売している。現在、世界全体で累計9,000台の販売され、特に環境意識が強いカリフォルニア州においては3,000台の販売を記録している。2014年6月 (2016年3月改訂) には経済産業省が「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を発表し、2019年3月には水素・燃料電池戦略協議会が定置型燃料電池、燃料電池車の普及、水素供給システムの確立、水素発電等の目標を掲げたロード・マップを策定している。世界でいち早く量産化された家庭用燃料電池 (エネファーム) は、2018年7月には販売累計が25万台を突破し、2030年までに530万台に拡大するという意欲的な目標が出されている。 世界的に、ZEV (炭酸ガス排出ゼロ車) の拡大が求められる中において、燃料電池車は水以外の汚染物質を一切出さないという強みがある。燃料電池車は、従来は1台1億円以上の生産コストがかかり本格的な普及のネックとなっていた。しかし、2020年以降に、日本が世界に先駆けて安価な燃料電池車の普及を計画し、2025年には世界で180万台、日本で20万台とし、日本国内においては、2030年に80万台、2040年に300万台~600万台、航続距離1,000キロメートルという具体的な目標を設定している。 世界の水素ステーションは現在、3,100ヵ所に達すると見込まれる。水素ステーションは1基5億円するものの、日本政府は2016年3月に燃料電池車普及の強化を一段と強め、2019年9月時点で100ヵ所を超えた水素ステーションを、2020年に160ヵ所、2025年に320ヵ所という目標を定めている。 2030年に向けて、次世代自動車用燃料として、水素、天然ガス、低品位炭の利用が大幅に増加することが見込まれる。2030年には国内の水素市場は1兆円、2050年には、水素ステーション、燃料電池車、水素発電所をはじめとした水素インフラストラクチャー市場は、日本で8兆円、世界で160兆円、関連市場も含めると270兆円規模という大きなビジネス・チャンスが期待できる。電気自動車との競合という不透明感に直面するなか、家庭用燃料電池、燃料電池車、燃料電池トラック、燃料電池バス、燃料電池フォークリフト、水素ステーション、水素発電をはじめとした水素エネルギーを取り巻く最新動向と将来的な事業と環境政策にかかわるチャンスとリスクについて資源エネルギーの第一人者が明確に詳説する。