パワーエレクトロニクス技術の急速な発展に伴い、産業用モータはインバータで制御されるのが主流になりつつある。また、今後、世界的規模で電気自動車 (EV) の急速な普及が予測されている。 将来のEVの大量生産を見込んで、各社独自の高機能性高分子 (ポリマー) 絶縁フィルムの車載用途としての開発が進められている。しかし、インバータ駆動モータでは、インバータサージと呼ばれる立ち上がりの急峻なインパルス電圧によって部分放電が発生するため、モータ絶縁の急速な劣化が危惧されている。現在、この様なサージによる絶縁破壊のトラブル対策とその計測・評価が重要な技術課題となっている。 将来の絶縁システムの劣化破壊はこの繰り返しサージ電圧によって発生する部分放電が原因であるが、その発生メカニズムや検知の方法は従来のAC電圧の場合と比べ大きく異なっており、十分に理解されていない。その絶縁評価方法は各企業で独自に検討されているが、不明な点も多く、経験に頼るところが大きい。その理由の一つとして、ナノ秒時間スケールの部分放電現象の発生条件が様々な環境要因で変化することが挙げられる。 産業用モータの分野ではすでにインバータ駆動モータ絶縁に関する国際電気標準会議 (IEC) 規格が発行されており、国際競争の下で信頼性の高いモータの製造が要請されている。より過酷な環境条件で使用するEVでは新しいタイプのモータが開発されており、部分放電が発生しない高性能な絶縁システムを構築することが求められている。どのような条件で部分放電が発生し、それをどのような検知器と手順で正確にとらえることができるのか、今多くの製造設計現場で調査、研究が行われている。 本講演では、産業用モータとEV用モータとを比較しながら、インバータ駆動モータの部分放電と絶縁評価、ポリマー絶縁材料のインパルス試験方法とその問題点について基礎から詳しく解説する。