1970年台におけるスーパーコンピュータの登場が大きな後押しとなり、1980年台になって計算手法に基づく科学研究は実験、理論に次ぐ“第3の科学”として新たなパラダイムとなった。それに前後して、バンド理論を中心とした固体電子論は、1964年のHohenberg – Kohnによる密度汎関数理論及びその翌年のKohn – Shamによる局所密度近似により新たな局面を迎え、その後に続く数多くの関連する数値計算手法の高精度化、高効率化の提案により、仮定される近似が対象とする物質系に依存せず (汎用性) 、実験的に得られる経験的知見を用いない (非経験性) 、第一原理に立脚した電子状態計算、いわゆる第一原理計算となった。一方、より広範な研究分野との重なりをつくって、物質科学は複雑さと多様性を増し、その結果として密度汎関数理論に基づく第一原理計算は物性物理分野だけでなく応用物理、化学、材料の分野の研究者にも広く活用されるようになり、現在では物質科学に関連する研究分野での必須の研究手法となっている。 近年、研究の対象としての物質・材料の複雑さと多様性は、ただ単に性能やコストパフォーマンスを求めることからだけでなく、環境・エネルギー問題等に関わる持続的社会の実現への要請からも相まって増大し、多くの場合、材料やデバイスとしての実用化に長い年月を費やすこととなり、研究開発の加速化が重要な課題となってきた。そこで登場したのが“第4の科学”としてのデータ科学である。データ科学は、蓄積された膨大な数の情報 (ビッグデータ) を基に、ターゲットとなる問題に対して予測性をもつ数学的モデルを構築し、広く研究開発を加速する手法となるものとして高く期待されている。機械学習はデータ科学における代表的手法であり、モデルの構築を統計的な手順と評価により実現する。しかしながら、機械学習が対象とするビッグデータは物質・材料の分野ではほとんど見当たらないのが現状であり、第一原理計算を活用したデータ蓄積の取組が欧米において進められている。 本講演では、これらの背景を概観しつつ、第一原理計算と機械学習の連携によるマテリアルズ・インフォマティクスの基礎から活用法と最近の我々の研究についても紹介する。
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