循環水ラインや家電製品の汚染、建造物や石油パイプラインの汚染、さらには医療分野や医療器具・機器の汚染など、多岐に渡る産業分野においてバイオフィルムは様々な問題を引き起こしている。このようなバイオフィルム汚染は、現代においても莫大な経済的並びに人的損失を招いており、バイオフィルムの形成を抑止し、さらにはそれを効果的に破壊する技術の開発が各方面で強く望まれている。その意味で、バイオフィルムは「小さくて厄介な敵」であると言える。 しかしその一方でバイオフィルムは、物質生産や有害物質の分解除去などの産業分野において古くから利用されてきた。現代においても地球環境問題や資源問題、あるいは多剤耐性菌問題などの全人類的な脅威に対し、今後大いに活用を図っていくべき「小さな強い味方」でもある。 本セミナーにおいては、このような「小さくて厄介な敵」の姿と特性について理解を深め、その姿を把握・定量化する様々な手法を説明する。また、演者らが開発中の新規な分析手法群についても詳しく紹介したい。そのうえで、この「小さくて厄介な敵」を駆除する技術群についても、最新の手法も含めて紹介する。さらに後半の部においては、「小さな強い味方」であるバイオフィルムとして、様々な産業分野における活用事例を紹介する。排水処理や有害物質の分解除去、有用物質の生産技術への応用に始まり、演者らが長年取り組んできた有機溶媒/ゲル、並びに有機溶媒/水界面に形成させたバイオフィルムを用いた医薬品や化粧品原料の生産研究についても紹介したい。さらには、新規な抗生物質などの医薬品原料の探索用ツールとして、現在開発中の2つの界面スクリーニングシステムについても、詳しく紹介したい。