本セミナーでは、近年の皮膚表面上の温度受容・脳研究から温熱的快適感のメカニズムについて解説いたします。
また、人体の温熱生理反応を予測する人体熱平衡モデルを活用して開発に寄与できる知見・評価要素を習得していただきます。
~体温調節と温熱的快適感~
(2018年5月30日 13:00〜14:30)
脳や皮膚には特定の温度に対して神経が活動する温度受容メカニズムが存在する。ところがヒトは異なる温度受容を持つ。 温熱的快適感とよばれる暑さ、寒さ感覚がそれであり、皮膚/中枢に存在する温度受容体の情報を統合し、いわば生存のための環境温度の価値判断をする温度受容であると考えられる。しかし、その生物学的な実態は明らかではない。 講演では体温調節の基本的な概念を習得するとともに、温熱的快適感に関わる最近の知見を総括し、基礎や応用研究につながる情報を提供したい。
体温調節の目的は、温熱的外乱 (例えば運動や環境温度の変化) の影響をうけないよう生体の温度を一定に保つことである。この営みは全ての生物が行っていることであり、下等生物 – 高等生物、植物 – 動物、変温動物 – 恒温動物を問わない。全ての生物が共通して行っている体温調節は生存のための環境条件を選択することである。 変温、恒温動物が共通して行う体温調節は、行動性体温調節とよばれる。これは体温を維持するために必要な環境を探索したり、作ったりする行為である。亀の甲羅干、鳥の営巣、人間が衣服を着たり、エアコンをつけたりするのも行動性体温調節の一つである。人では行動性体温調節と温熱的快適感が密接に関わっていると予想されている。
分子レベルでの温度受容、センサーの解析は進んできたが、特に最近の温度受容イオンチャネル、温度TRPの研究成果は目覚しい。しかし、実際の我々の温度感覚とのつながりは明らかではない部分も多い。 皮膚からの温度感覚は、痛覚と類似した神経回路を通って中枢に至り、温度感覚として意識下にのぼると考えられている。しかし、温熱的快適感がどのように形成されるかは未だ明らかではない。脳研究から得られた最近の知見を紹介する。
(2018年5月30日 14:45〜16:15)
自動車などの輸送機器において、複雑で非定常な温熱環境下に置かれた乗員の温熱的な快適性を評価するためには、温熱環境の物理的なパラメータを適切に把握したうえで、人体の温熱生理反応を把握する必要がある。 しかし、それらを実験的に計測するためには、多種にわたる項目の計測と多くの被験者が必要となるため、工業製品の開発に適さない。このため、人体の温熱生理反応を予測する人体熱平衡モデルは、そうした問題点を解決する有効な手段であり、これにより初めて開発に寄与できる評価が可能となる。 本講座では、そうした予測を用いて設計開発を行う技術者にとって不可欠となる基礎知識の習得を狙いとしている。