アンチセンス、siRNA (small interfering RNA) 、アプタマーに代表される核酸医薬品は、抗体医薬品に続く次世代医薬品として注目を集めている。現在、製薬業界では創薬シーズの枯渇が大きな問題となっているが、核酸医薬品は従来の低分子医薬品や抗体医薬品では標的にできなかったRNAをターゲットにできる点において魅力的である。核酸医薬品の標的となるRNAはタンパク質をコードするpre – mRNA、mRNAに留まらず、近年、生理機能の解明が進んでいる非コードRNAも対象であり、非コードRNAの研究と共に今後、創薬対象が大きく拡大していくと考えられる。これまで核酸医薬品は生体内における易分解性等の問題が指摘されていたが、修飾核酸技術やDDS技術が著しく進展したことから、安定で有効性の高い候補品が次々と開発されている。核酸医薬品は抗体医薬品と同様に高い特異性と有効性が期待される一方で、低分子医薬品と同じく化学合成により製造することができる。また、薬効本体が核酸モノマーを連結したオリゴ核酸で構成されるという共通の特徴を有すること、有効性の高いオリゴ核酸配列のスクリーニングが低分子医薬品と比較して容易であることなどから、ひとつのプラットフォームが完成すれば短期間のうちに新薬が誕生すると考えられている。 核酸医薬品は実用例が少ないことが長らく指摘されてきたが、2013年に3番目の核酸医薬品となるKynamro (Gapmer型アンチセンス) 、2016年には2つの核酸医薬品 (Exondys 51, Spinraza:スプライシング制御型アンチセンス) が相次いで承認され、ここにきて勢いを増している。Phase 3の段階にある候補品も20程度存在し、特に難治性疾患の領域を中心に今後も実用化が進むと考えられる。 以上のように開発が大きく進展している核酸医薬品であるが、開発の指針となるガイダンスは国内外で存在しておらず、規制当局が既存のガイダンスを参考にしながら個別に対応しているのが現状である。この背景から、核酸医薬品に特化したガイダンスの策定、品質・安全性評価法の開発、審査指針の根拠となる科学的データの取得など、開発環境を整備するレギュラトリーサイエンス研究の重要性が指摘されている。このような背景を踏まえ、本セミナーでは核酸医薬品の基礎、研究開発の現状、現在の抱えている課題を概説し、核酸医薬品の規制に関連する国内外の動きを整理する。