天然セルロースの結晶性微細繊維であるセルロースミクロフィブリルを長繊維形態のまま抽出したセルロースナノファイバー (CNF) は天然由来の高強度材料として盛んに研究され、政府の成長戦略にも盛り込まれるなど注目が集まっている。一方で、天然セルロースやキチン試料を塩酸・硫酸などで加水分解することによりこのミクロフィブリルは短く寸断され、高結晶性領域の棒状微結晶であるセルロース/キチンナノウィスカー (CNWs/ChNWs) を得ることができる。これらのナノウィスカーは、長さを除けばCNFと同等の形状や特性を持ち、また液晶形成能や光学的特性など力学物性以外にも興味ある挙動を示す。ナノウィスカーの分散性、それに伴う粘性や液晶形成能は種々の表面修飾 (様々な荷電基の段階的導入、高分子鎖グラフト) によって制御が可能である。CNWはCNFと似た性質を有しながら、異なる特性を持つ高機能性材料を創成できる可能性を秘めている。 本講演では、CNWs/ChNWsとはどのようなものか、特にその調製法とCNFとの違いについて焦点を当てて解説し、続いてこれらのコロイドとしての分散性の制御を、静電安定化および立体安定化という2種の原理に基づいて解説する。コロイド分散系であるCNWs/ChNWsの使いこなしのカギは分散性の制御にかかっており、その実現のためのCNWs系特有の手法について、当研究室からの成果を中心に紹介する。さらに、CNWs/ChNWsの機能性材料への応用例、特に複合材料のナノフィラーとしての利用法を中心に紹介する。また、当研究室の研究の成果から最近生まれた、大量製造可能な新規乾燥CNWs粉末の製造と供給についても紹介する予定である。