第1部. エクソソームを標的とした診断と治療の最前線
(2017年9月11日 10:30〜12:00)
細胞が分泌するナノサイズの粒子である細胞外小胞 (Extracellular vesicles:EVs) は、世界中でその研究開発が盛んに行われている。今やゲノム編集と並んで、世界のサイエンスで、その論文数のみならず、最も研究費や研究人口が増えている領域となった。このEVsにはエクソソームと称される代表的な小胞が存在し、その生物学的意義や、がんなどの疾患における機能、そしてこれらを標的とした新しい診断や治療が、極めて高い注目を浴びている。
本講座では、このEVsの世界的開発状況を、国内外でエクソソーム研究の第一人者であり、日本細胞外小胞研究会会長の落谷孝広が概説することで、アカデミアをはじめ、製薬、産業界が一体となった研究開発の方向性を考える機会とする。
- エクソソームの基礎
- エクソソームとは
- エクソソームが細胞間情報伝達の常識を変える
- さまざまな生命現象とエクソソーム
- エクソソームと医療の接点
- がんにおけるエクソソームのかかわりとその臨床応用
- がんにおけるエクソソームの意義とは
- がんのエクソソームを標的とした創薬の可能性
- 再生医療とエクソソーム
- 間葉系幹細胞とエクソソーム
- 間葉系幹細胞のエクソソームによる再生医療の現状
- 間葉系幹細胞のエクソソームの臨床応用の問題点
- エクソソームの診断法
- エクソソームmiRNAによる診断
- エクソソーム膜タンパク質の検出による診断
- エクソソーム診断技術の現状
技術編 : エクソソーム解析技術
- 培養上清・体液からエクソソームを回収するための準備
- 一般的な解析に必要なエクソソーム量
- 培養細胞の培養上清の準備
- 体液の前処理
- 超遠心法によるエクソソームの回収
- エクソソームの回収・洗浄
- スクロースクッションを用いたエクソソームの粗精製
- 密度勾配遠心法によるエクソソームの分離
- 回収したエクソソームを利用した実験例
- エクソソームのタンパク質の濃度測定
- ウエスタンブロット法によるエクソソームマーカーの検出
- 蛍光色素を用いたエクソソームの標識~細胞への取り込みを可視化するために
- エクソソームからのRNAの抽出
- 抽出したRNAの品質チェック
- エクソソーム関連試薬および機器を用いた実験例
- NanoSightなどのnanoparticle トラッキングシステムによる解析
- 遠心によるエクソソーム回収キット (Total Exosome Isolation) を用いた血清または尿からのエクソソームの回収
- 免疫沈降法によるエクソソームの検出
第2部. 臨床で活用されているDNAメチル化診断技術とがんの早期発見・治療への期待
(2017年9月11日 12:45〜14:30)
DNAメチル化は遺伝子発現制御に関わるエピジェネティクス機構の一つであり、その異常は様々な種類のがん (悪性腫瘍) で見つかっている。がんにおけるDNAメチル化研究の成果として、脳腫瘍における抗がん剤効果予測因子としてのMGMT遺伝子や、前立腺がんの早期発見におけるGSTP1遺伝子のメチル化診断が既に実用化されている。また、DNAメチル化異常は血液、喀痰、便、尿でも検出可能であるため、非浸襲性バイオマーカーとしての期待が高い。現在、DNAメチル化阻害薬の開発が進んでいるが、生活習慣の改善によってもその変化を戻すことができるため、DNAメチル化の低減とがん予防との関連も注目されている。
本セミナーでは、臨床的に活用されているDNAメチル化診断に着目し、その作用機序およびがん早期発見・治療への期待について紹介する。
- DNAメチル化とエピジェネティクス
- DNAメチル化異常と疾患
- 活用されているメチル化測定法
- がんの臨床病理学的諸性状に関わるDNAメチル化の概要
- 実用化されているDNAメチル化診断
- MGMT遺伝子メチル化に基づく脳腫瘍の化学療法の評価と現状
- GSTP1遺伝子と前立腺がんの早期発見
- がん診断へのDNAメチル化解析の応用
- がんのリスク予測マーカー
- 将来的に期待されるメチル化バイオマーカーと診断法の開発
- 非侵襲性バイオマーカーとしてのDNAメチル化
- 生活習慣要因とDNAメチル化異常
- メチル化解析法
- DNAメチル化に基づくがん早期診断・治療への期待と課題
第3部. 分光法を用いたがん細胞由来物質の高感度検出
(2017年9月11日 14:45〜16:30)
近年の基礎科学技術の発達により、従来では困難であった微小、微量の物質の検出が可能となり、医療分野でも非常に大きな革新が起きつつあります。一方、IT技術と人工知能の活用により、様々なデータが再定義され、新たな価値が見出されています。基礎科学技術とIT技術の組み合わせは、これまでに存在しなかったものを創造するエネルギーとなり、例えばウェアラブルデバイスによる非侵襲あるいは低侵襲の生体評価技術が開発されています。
本講座では、がんの早期診断を目的に開発中の分光法を用いた核酸、細胞、組織の評価技術の現状をご紹介しながら、非侵襲性技術の重要性、無標識評価技術の優位性、ウェアラブルデバイスによる生体のリアルタイム評価技術を応用したユビキタス型健康管理社会の実現などに関して論じます。
- がん診断の標準的技術
- 血液検査
- 放射線・磁気・音波等による画像診断
- 内視鏡診断
- 病理組織学的診断 (細胞診、組織診)
- 非侵襲・低侵襲評価技術
- 非侵襲・低侵襲評価技術の種類と特徴
- 音波を応用した評価技術
- 磁気を応用した評価技術
- 光を応用した評価技術 (分光法など)
- 分光法の医療分野への応用
- 分光法の概要
- 分光法による核酸・タンパクレベルの解析
- 分光法による細胞の解析
- 分光法による組織の解析
- 生体に対する評価技術
- 生体に適用する技術に必要とされる条件
- 無標識評価技術
- ウェアラブルデバイスによるリアルタイム生体評価技術
- まとめ