医薬品原薬、中間体、化学品開発の最終目標はその商用生産にあり、スケールアップ検討は避けられない部分である。経験的に商用生産に結び付けたプロジェクトは多数あるが、スムーズに進んだことは殆どなく、失敗した経験がその後の商用生産に役立つケースが多い。しかし、スケールアップで失敗すれば時間、原料費等損失は大きい。実際に経験した失敗をどのように解決して商用生産に結び付け、その後の検討に生かしたか実例をもとに説明する。
第2章では、一つの化合物に絞り、実験室スケールからパイロット (200~300L) 、更に商用生産 (数1000Lスケール) へのスケールアップで経験した失敗例、問題点をどのように解決して商用生産にたどり着いたか、各工程のポイントを含め説明する。
- スケールアップとは
- 考え方、医薬品原薬の開発を例に
- チェック項目
- 実験の進め方、スケールダウン実験の重要性
~過酸化水素水によるスルフィド誘導体の酸化反応を例に
- アミノチアゾール酢酸誘導体の商用生産 (7工程、数トン/年生産) の例
- 出発原料 (アセト酢酸エステル誘導体) の選定 (何を基本に設定すべきか?)
- 原料、中間体の安全性評価
- オキシム化工程 (NaNO2/酸) での酸の選択、考え方
- ジメチル硫酸によるメチル化工程での塩基の選択、考え方
- 爆発性中間体の単離回避の検討、廃液の問題
- 臭素化工程のスケールアップの問題点、反応開始、副生物、反応機構
- チオ尿素によるチアゾール閉環工程での塩基の選択、副生するanti異性体の除去
- アシル化工程の簡略化 (操作が煩雑、抽出-濃縮工程の省略)
- アシル化、加水分解生成物の単離方法 (生成物はクリーム状で濾過性が悪く、遠心脱水に長時間必要)
- 加水分解工程の改良 (副生物が発生) 、操作簡略化
- 加水分解生成物 (カルボン酸誘導体) の再結晶工程の問題 (異性化) 回避
- 最終工程 (五塩化リンによるクロル化)
- コスト問題から溶媒回収が必須
(塩化メチレン/n-ヘキサン混合溶媒から塩化メチレン、n-ヘキサンを回収できるか)
- 最終洗浄溶剤と乾燥後の製品の品質の相関性
- 回収溶剤 (塩化メチレン、n-ヘキサン) に微量のアセトンが混入
- その他の事例
- 設備が腐食してしまった (小スケール実験では想定不可)
- ジャケットの保温効果 (想像以上に保温効果が良く、オーバー反応)
- 加水分解後の濃縮 (濃縮中に反応が進行)
- 原料のグレード変更:低純度品 (98%) を高純度品 (99.5%↑) に変更したところ逸脱、規格外の製品が得られた
- 水和物→無水和物の変換 (乾燥機の選択を誤って失敗)
- 危険な試薬を使用しなくてはならない (20Lスケール以上は危険性で実施不可)
- 先入観を持って検討を開始したため検討に時間を要した
- スケールアップを計画したら目的純度の原料が入手できない
- 転位反応が原因でスケールアップしたら目的物が得られなくなった
- その他