研究開発部門の役割は大きくは2つあります。一つは既に展開している事業の成長のための技術的な面からの支援。そしてもう一つが新事業創出の為の新たな技術の研究開発です。後者に関しては、通常研究開発部門の他に、研究開発部門が創出した技術に基づき新事業開発を担当する新事業開発部等の部署が存在します。企業において将来の収益の柱の構築という重責を担うこの部門は、様々な課題に立ち向かいそれら課題を解決しなければなりません。しかし、この部門は多くの企業において人的な面で非力であるのが普通です。また、それ以前の問題として、技術を生み出す研究開発部門と、それらを事業として成功させるこの部門との間には溝、すなわち「死の谷」が存在しています。これら2つの問題が、日本企業における新事業創出の大きな障害になっています。
この2つの障害の克服策が、研究開発部門が初期から技術、製品だけでなく、ビジネスモデル全体を考え、更に当該ビジネスモデルの実現に積極的に関わることです。それにより、将来の自社の収益の柱とならなければならない新事業を、成功裡に創出する可能性が格段に高まります。
ここで重要なことが、ビジネスモデル構築に当たっては、当初から高収益を実現することを目指すことです。なぜなら、それにより、初期の段階から自社がやるべきこと、他のプレーヤーに依存すべきことが明確になり、最低の投資および時間で、効率的に高収益を実現することができるからです。
今、日本企業が置かれている益々厳しくなる競争環境下においては、従来の研究開発部門が技術を創出し、後は新事業開発部門が少ない人員の中で孤軍奮闘するという展開パターンでは、将来の収益の柱とするような事業の創出は到底覚つきません。今こそ、研究開発部門が主体となって高収益ビジネスモデルの実現に邁進しなければなりません。
本セミナーでは、高収益がどのようなメカニズムで創出されるのかについて演習を含めて学んでいただき、その後そのメカニズムを構成する各要素では、どのようにその実現に向けて考えていかなければならないかについて講義を行い、最後にこの考え方に基づき、超高収益で有名なキーエンスのビジネスモデルについてご説明します。演習を含め、講師とご参加者間、またご参加者間の3社間での活発なコミュニケーションの中で講義を進めます。
- なぜ研究開発部門が高収益ビジネスモデルを考えなければならないのか?
- なぜ高収益なのか?
- 日米企業の利益率比較
- 日本企業の問題点
- なぜビジネスモデルなのか?
- 仕組み – ビジネスモデルの必要性
- 本日のビジネスモデルの定義
- なぜ研究開発部門なのか?
- 何が収益を生み出しているのか?
- 早期から事業を考えることの重要性
- 新事業創出において事業を考えるに最も適当な部署はどこか?
- Value Creation (価値創出) とValue Capture (価値実現) との一体化の必要性
- 高収益を生み出すメカニズム
- (演習1) 「利益はどう決まるか?」
- 顧客価値、競争、コストと利益の関係
- 顧客価値の拡大
- (演習2) 「顧客は何に対して価値を認識するか?」
- 顧客提供価値拡大モデルVACES (日本触媒、シマノ、日東電工、東洋電機、3M、コマツ、 Bush Boake Allen、 ダウジョーンズ・サステナビリティ・インデックス、ホンダの例)
- VACESにより新たな顧客価値創出機会を見つけるには:市場を理解する3軸: 『TAD』 (島津製作所、ホンダの例)
- 競争の回避
- 競争を回避するための『6つのD』
- 競合企業が参入する気にさせない (Discourage) (ホギメディカル、サムスン、IBM vs. Dellの例)
- 競争の厳しくない、交渉力が相対的に弱い顧客を選ぶ (Dictate) (ロングテール等)
- 参入時期を遅らせる (無競争期間を長く) (Delay) (潜在ニーズの重要性、ヒロセ電機、シマノ、テトラパック、キーエンス、ワコール、キヤノンの例)
- 顧客を固定化する (Detain) (マイクロソフト、ゼロックスの例)
- 競合企業が参入したら撤退 (Depart) (ヒロセ電機、インテルの例)
- 競合企業を吸収する (Digest) (日本電産等)
- コストの低減
- コスト低減は、カイゼンやVA/VEなどの視点からだけで実現されるものではない
- 包括的なコストの低減の基本視点:製品の単価を示す「分子 (投入コスト) ・分母 (数量) モデル」
- 分子 (投入コスト) の低減法
- ステークホルダから見た投入コストの4つの分類
- ステークホールダ別コスト低減法 (ODM、オープンイノベーション、市場を知ることの重要性、マブチモーターの例等)
- 分母 (数量) の拡大
- 分母拡大の2つの視点
- 規模の経済性を拡大する方法 (カスタム vs. 標準品、市場を知る重要性、何が標準化を妨げるのか?、 日東電工、SMCの例等)
- 範囲の経済性を拡大する方法 (コア技術、ノウハウ・知識の活用、三菱重工の例)
- 高収益ビジネスモデルのフレームワークと実現法
- VaCCモデル (Value、Competition、Cost) (シマノの例、等)
- ビジネスモデルとは (ビジネスモデルキャンバスとの違い等)
- ビジネスモデルにおいて押さえるべき重要視点 (ストーリーの重要性等)
- キーエンスの高収益ビジネスモデル
- VaCCモデルに基づくキーエンスの高収益ビジネスモデルの全体像の説明
- 全体の構成要素 (骨太の施策、顧客価値拡大法、競争回避法、コストの低減法)
- 最後に