FRPに代表されるように、高分子系繊維強化複合材料 (F-PMC) は今日大変身近な存在となっています。主としてガラス繊維を強化材とするGFRPでは、大きな漁船や数百トンの掃海艇、遊園地のボート、家庭ではバスタブなど幅広く使われています。最近では、カーボン繊維を強化材とするCFRPも航空機 (B787やA350) にフルに使われ、新聞紙上でこれらが大きな荷重を支える構造用材料として活躍している様子を見ます。これらの素材では、軽くて丈夫 (強い) 、錆びないなどの特長が喧伝されますが、耐久性について言及されることはほとんどありません。 荷重が繰り返し作用する場合、人と同じく材料も疲労します。鉄鋼材料では明確な疲労限があり、長期間使用される構造物、機械要素では疲労限を目安に耐久性を考えた構造設計がなされます。しかし、F-PMCの場合、その形態が複雑で多様 (強化繊維の種類も多数ある、積層材の形態も多種多様) なため、代表的な疲労寿命曲線は存在しません。材料や複合材料の構造形態により破壊様相も異なります。また、疲労限も存在しません。そのため、耐久性を考えた設計そのものを合理的に進めることが難しいのが現状です。アルミ合金に替えて、プレス成形ができ、軽量で腐食にも強いカーボン繊維を使ったSMCによる自動車用ホイールは上市されなかったのでしょうか。 F-PMCを用いた構造物、機械要素の耐久性も考えた設計、開発を行うためにはそれらの疲労損傷メカニズムを知るとともに、その特性がいろいろな要因によって影響されることを理解する必要があります。耐久性を高めるためには、それらの知識が欠かせません。本講座では、異なるF-PMCの種類ごと、疲労破壊に至る過程を示し、そのメカニズムを解説するとともに、耐久性向上の方策についても説明します。加えて、疲労寿命推定方法についても言及します。