2020年の東京オリンピック、2025年の環境規制に向けて、世界の自動車産業は大きな変革に直面している。第1の変革は地球環境保護への環境対応車の開発だ。環境問題解決、低炭素社会の構築、省エネルギー性能等への対応から、燃料電池車 (FCV) 、電気自動車 (EV) 、プラグ・イン・ハイブリッド車 (PHV) 、天然ガス自動車、低燃費ガソリン車など次世代自動車の開発・普及が、世界の自動車企業によって競われている。 燃料電池車は究極のエコ・カーとされ、2014年12月15日にトヨタ自動車が世界最初の量産型燃料電池車MIRAI (ミライ) の販売を開始したものの、フォルクス・ワーゲン、GMをはじめとした世界の巨大自動車メーカーは、燃料電池車と比較して技術的に構造が簡単な電気自動車 (EV) 開発に一斉に舵を切り始めている。世界の電気自動車向け充電器市場は2020年には2,600億円を超えると予測され、2025年における世界の電気自動車市場は、年間250万台が見込まれている。燃料電池車で先行するトヨタも系列メーカーとともに電気自動車の開発強化を行っている。 電気自動車は、リチウムイオン電池の技術進歩により1度の充電により走行距離が300キロに達しているものの、ガソリン自動車と比較して「まだまだ短い航続距離」、「少ない充電ステーション」、「高価な蓄電池」が課題と言えるだろう。また、電気自動車はスマート・フォンと比較して1万倍近くのリチウムイオン電池の容量を必要とすることから、リチウムイオン電池の原料に用いるリチウム資源の偏在と価格上昇も課題として近年クローズアップされ始めている。リチウムイオン電池それ自体も正極材、負極材、電解液、セパレーター等の素材において電池の低価格化、大容量化の開発競争が今後さらに激しくなるだろう。 米国カリフォルニア州では、2018年からZEV (排ガスゼロ車) 規制が強化され、販売台数の一定割合を電気自動車等のZEVとすることが求められている。自動車環境規制を強化している米国、中国ともに、日本の自動車メーカーが得意とするハイブリッド車 (HV) を対応車として含めていない。また、シェール・ガス革命によって天然ガス価格が下落していることから、米国では圧縮天然ガス自動車 (CNG) 、LNG (液化天然ガス) 自動車の開発・普及も進んでいる。天然ガス自動車は世界で1,500万台に達しているが、2035年には7,500万台に増加すると予測されている。 第2の変革は、自動運転、ライド・シェア等の新たな自動車の将来像が具体化しつつあることが挙げられる。2020年以降にはAI (人工知能) を活用した自動運転車の普及が本格化する可能性がある。電気自動車、自動運転車の普及は、既存の自動車企業とIT企業の提携を通じた、日本の自動車メーカーの勢力図を変貌させる可能性が大きい。今後2020年〜2030年に向けて、水素と電気等など自動車関連のエネルギー供給インフラストラクチャーをはじめとした大きなチャンスが期待できる。次世代自動車を取り巻く最新動向と今後の事業機会について第一人者が的確に解説する。