2016年に入り、日本企業連合による、海外における原子力発電所受注が相次いでいる。2016年1月には、日立-GE連合が総投資額3兆円を超える英国の原子力発電所建設を受注し、2016年6月には東芝傘下のウェスティング・ハウスがインドの原子力発電所建設を受注した。自民党政権は、原子力発電の海外輸出を有力なインフラ輸出戦略の柱に据え、安倍首相の訪問により、トルコの原子力発電所建設について、三菱重工業がFSの枠組みについて正式合意を行った。ベトナムのニントゥアン省の原子力発電所建設も、早期建設の方針を表明している。日本国内においては原子力発電推進政策に逆風が吹き、一部の欧州諸国は脱原子力発電政策に舵を切っている。しかし、世界を見渡すと、原子力発電所は2016年1月時点において、434基、発電能力3億9,886万キロワットと、極めて「重要な」基幹エネルギーとして増加傾向にある。特に、中国、インドをはじめとしたアジア諸国と中東・アフリカの途上国は、急速に増加する電力需要への対応と炭酸ガス排出削減、さらにはエネルギー源の多角化とエネルギー安全保障の観点から、原子力発電所の新設を進めている。アジアだけでも、2035年までに原子力発電所100基分に相当する1億キロワットを超える原子力発電所新設計画がある。中東産油国も、国内で増加する電力需要は原子力発電に依存する計画を表明している。 先進国、途上国を問わず、「原子力ルネッサンス」の動きは変わらない。むしろ、原子力発電所事故を経験し、教訓とした日本の最先端の技術と運転・保守・管理への期待が大きい。他方、アブダビ、パキスタン、ハンガリーの原子力発電所計画のように、韓国、ロシア、中国が価格の安さと資金支援を武器に、日本にとっての強力な競争相手となっている。日本は、東芝、日立、三菱重工業をはじめとした重電メーカーが、BWR (沸騰水型軽水炉) 、PWR (加圧水型軽水炉) の両方の技術を持ち、2012年11月に日立がホライズン・ニュークリア・パワーを890億円で買収し、2013年12月に東芝がニュージェネレーションに140億円の出資を行い、原子力発電輸出の足がかりを構築した。日本の電力企業は40年を超える豊富な保守・管理の経験を持っている。2016年7月には、日本原子力発電が、日立による英国の原子力発電所建設事業に参画することとなった。2016年9月には、日立、東芝、三菱重工業3社の原子力発電燃料事業の統合が発表され、将来的に3社の原子炉事業統合の可能性も考えられる。 世界的な原子力発電推進政策の最新動向と日本企業の事業展開のチャンスとリスクを明確に詳説する。