化学物質による労働災害は長期的には減少傾向にあり事故などの事案を除いて慢性中毒の発生は過去のもの考えられていました。国は危険有害性のある化学物質についてリスクアセスメントを努力義務としてきましたが、ここ数年は化学物質による労働災害の発生は増加傾向にあります。国は2014年6月の安全衛生法の改正により、安全データシート (SDS) の交付義務対象である640物質についてリスクアセスメントを義務化し、2016年6月1日から施行しています。リスクアセスメントの実施は、事業場の規模や業種、取扱量などにかかわりなく対象物質およびそれを含有する製品を製造または取扱う全ての事業場が対象となります。 改正法および改正政令の趣旨として、人に対する一定の危険性又は有害性が明らかになっている化学物質について、起こりうる労働災害を未然に防ぐため、事業者および労働者がその危険性や有害性を認識し、事業者がリスクに基づく必要な措置を検討・実施する仕組みを創設するもので、化学物質等を取り扱う事業者は、譲渡・提供元から提供される安全データシート (SDS) の内容等から化学物質等の危険性又は有害性を特定し、特定された危険 性又は有害性によるリスクの見積りを行い、その結果に基づきリスクを低減するための措置を検討するという一連の取組を行うことの必要性が述べられています。2016年6月1日以降に (1) 対象物を原材料などとして新規に採用したり、変更したとき、 (2) 対象物を製造し、または取り扱う業務の作業の方法や作業手順を新規に採用したり変更したとき、 (3) 対象物による危険性または有害性などについて変化が生じたり、生じるおそれがあるときにリスクアセスメントの実施を事業者に義務付けしています。また、 (1) 働災害発生など過去のリスクアセスメントに問題があるとき、 (2) 過去のリスクアセスメント実施以降、機械設備などの経年劣化、労働者の知識経験などリスクの状況に変化があったとき、 (3) 過去にリスクアセスメントを実施したことがないときにスクアセスメントの実施を事業者に努力義務付けしています。 本講座では、労働安全衛生法における健康障害防止のための化学物質管理体系と労働安全衛生法の改正内容、新指針において、一手法として紹介されているILO (国際労働機関) コントロールバンディング (元となる英国安全衛生庁のCOSHHエッセンシャル) の原理と手法について説明します。また、健康障害防止のためのリスクアセスメント手法 (ばく露評価による詳細リスクアセスメントおよび簡易リスクアセスメント) 、リスクアセスメント新指針の概要について説明するとともに、実施例によりリスクアセスメントの手法を学び、リスクアセスメントが実施できることを目指します。 また、コントロールバンディングの手法を基にOEL (労働ばく露限界値) を考慮した新しいJISHA方式のリスクアセスメント手法についても紹介します。