(2016年3月30日 11:00〜12:30)
急性腎不全 (Acute Renal Failure: ARF) は以前からよく知られている病態であるが、腎機能低下、尿毒素排泄障害、水分調節障害、電解質調節異常など病態が完成してから治療を行うという“守り”の医療であった。 急性腎障害 (Acute Kidney Injury: AKI) は2005年に作られた疾患概念で、腎機能低下がその症例の予後を極めて悪くするので、従来のARFで必須条件であった高窒素血症、水・電解質・酸塩基平衡などの異常を待つことなく、尿量減少を目安にするという“攻め”の医療に変わった。 このAKIについて、その原因とそれに対する治療方針について述べたい。
(2016年3月30日 13:15〜14:45)
これまで確実な治療法が確立していなかった急性腎不全における、全く新しい治癒機構の発見とその治療応用の可能性について講演する 。 生体内では、細胞の癌化や細胞の死、タンパク質の変性など、生体にとり好ましくない、さまざまな異常が常に発生している。このようにして生まれた異物・不要物は通常マクロファージを始めとした貪食細胞によって速やかに除去され、組織の修復が誘導されることにより、生体の恒常性は維持されている。この異物除去機構に障害があると、異物の蓄積により正常な組織構築が崩れるともに、二次的な炎症や線維化が惹起され、“異常”は様々な“疾患”となる。私たちは、血液中に存在するAIM分子が貪食細胞による異物認識の要として働き、それが急性腎障害 (AKI) の回復において重要な役割をはたしていることを見出した。 AKIでは、壊死した近位尿細管上皮細胞 (デブリ) が尿細菅腔を閉塞し、糸球体濾過機能低下や炎症を惹起し腎機能を悪化させることが特徴である。私たちは、AIMがデブリの迅速な除去とそれに続くAKIからの回復を促す鍵となる分子であることを明らかにした。AIMは、通常血液中でIgM五量体と巨大な複合体を形成しており尿中に排泄されることはない。しかしAKI発症と共に、AIMが尿中に排泄され近位尿細管を閉塞しているデブリ表面に蓄積する。それがシグナルとなり、尿細管上皮や貪食細胞によって急速にデブリ除去が進行することが明らかとなった。実際に、虚血再灌流法によりマウスにAKIを誘導すると、野生型 (WT) マウスに比べてマウスとAIM欠損 (KO) マウスではデブリの除去が障害され、その結果著しく悪化する腎障害によって高い致死率を呈する。一方、精製したAIMを投与することによって、KOマウスのみならず、重症例のWTマウスにおいてもAKIからの顕著な回復を促すことに成功した。 今回の講演では、こうしたAIMによる異物認識・除去機構によるAKI回復のメカニズムについて新しい知見を紹介し、AKI対する新規治療法開発の可能性を提示する。
(2016年3月30日 15:00〜16:30)
急性腎障害 (AKI) モデル動物に対する治療効果を示す薬物は、毎年数多く報告されているが、いまだに実臨床においてAKIに対する治療薬はない。その一因として、動物モデルと臨床におけるAKIの実際との乖離が挙げられている。今回、基礎研究にて用いられている動物モデルの種類と、個々の改善すべき点について概説する。また、AKIに対する治療効果を判定する指標についても、紹介する。