日本企業は、過去20年間停滞を経験してきました。一方で、海外企業に目を向けると、この20年間で、多くの新興国企業が成長し、欧米の優良企業は本質的な経営変革を実行し、数多くのベンチャー企業が生まれ成功してきました。私は、日本企業の停滞の原因は、誤解を恐れずに言えば、「ものづくり」への強い固執にあると考えています。多くの場合、「ものづくり」とは、市場価値が低下しつつある自己の従来の強みへの拘泥であり、自己の「視野狭窄」を生み 出してきているからです。企業は、その本質において、「顧客が享受する価値に対して支払う対価」を源泉に存続しています。したがって、企業が目を向けるべきは、直接的に、顧客が享受する「価値」です。企業にとってこの「価値」を継続的に創出すること、すなわち「価値づくり」が、その本来的使命であるはずです。そして、研究開発部門は、この「価値づくり」において先導的・主導的な役割を担わなければなりません。
この「価値づくり」を成功させ収益を継続的に拡大するためには、研究開発部門における「市場起点の思考と活動」、「コア技術戦略の実行」そして「オープン・イノベーションの徹底」の3つの戦略イニシャティブを有機的・相乗効果的に三位一体で組み合わせ、そしてそれらを強力に展開することが重要です。
本セミナーでは、以上のような「価値づくり」に向けての三位一体の研究開発の必要性の背景と、その構造と内容を紹介した後、具体的にどのような活動を行うことが必要なのかを、様々な事例を交えながら説明をしていきます。
- はじめに
- 日本企業の大きな問題点:ものづくり経営
- 日立の研究開発体制の改革:『価値づくり』へ
- なぜ『価値づくり』なのか
- 『価値づくり』の定義
- 「価値づくりへの脱皮」が求められる5つの大きな背景
- 顧客は享受する価値に対し対価を支払う
- 新興国企業の台頭による既存価値追求競争の限界 (韓国化粧品企業などの例)
- 先進国での低レベルの市場ニーズの充足
- 顧客は常に充足されない潜在ニーズを持つ (アマゾンのドローン活用例)
- 常に存在する『非顧客』
- 日本企業の大きな問題点:「ものづくり」への固執
- 「ものづくり」の関心領域:製品や技術
- 「a solution without a problem (問題のない解決策) 」
- 「ハンマーを持つ人には、すべてが釘に見える」 (マズロー)
- 『価値づくり』の視野 VS. 『ものづくり』の視野
- 『価値づくり』への『三位一体型』研究開発マネジメントとは
- 『価値づくり』は継続的収益確保のため
- 『価値づくり』による収益拡大のメカニズム
- 『価値づくり』のための三位一体の研究開発の全体像
- 『価値づくり』の視点を持つ
- 『価値づくり』における研究開発部門の役割 (三菱ケミカル、富士フイルムの例)
- 『価値づくり』の研究開発部門における現状「市場起点の思考と活動」の位置付
- 『価値づくり』の視点:VACESモデル (日本触媒、東洋電機、コマツ等の例)
- 市場起点の思考と活動
- 「市場起点の思考と活動」の位置付 (日立製作所の例)
- なぜ『顧客』起点ではなく、『市場』起点なのか
- 市場起点の重要性 ( (本田宗一郎、花王の例など)
- 研究者は蛸壺から出でよ!
- 市場・顧客を理解する3軸、TADとそのための具体的活動 (島津製作所、IBMの20%ルール、日本テトラパック他)
- 研究開発部門の市場起点の思考と活動のための方策
- コア技術戦略の追求
- 「コア技術戦略の追求」の位置付
- なぜ「自社独自性実現」が技術によるのか
- コア技術戦略とは
- コア技術設定の企業事例 (3M、クレハ、富士フイルム、東レ等)
- コア技術の選定軸
- コア技術の選定軸と三位一体モデルとの関係
- コア技術は戦略思考・未来志向で設定する
- コア技術による「市場起点の思考と活動」の促進 (日立、キヤノンの例)
- 「市場起点の思考と活動」によるコア技術の発見
- コア技術の設定プロセス
- 「オープン・イノベーションの徹底」
- 「オープン・イノベーションの徹底の」三位一体モデルでの位置付
- オープン・イノベーションとは
- オープン・イノベーションが必要とされる背景
- オープン・イノベーションの対象:技術/情報・アイデア/能力×製品/ビジネスモデル/技術
- オープン・イノベーションの事例 (スピード、シスコ、東レ)
- 『価値づくり』に向けてのオープン・イノベーションが必要とされる背景
- 他の要素とのその他の相乗効果
- コア技術によるオープン・イノベーション機会増大 (富士フイルムの例)
- オープン・イノベーションにおけるコア技術による収益確保
- オープン・イノベーションによるコア技術の強化と補完 (コンチネンタル、オリンパスの例)
- オープン・イノベーションによる市場理解の視野拡大 (インテカーの例)
- 市場起点の思考と活動によるオープン・イノベーション対象者の発見
- 外部パートナー探索2つの方向性
- 自社が個別に外部を探す (P&G、コニカミノルタ、ソフトバンク、ナインシグマ等)
- 外部に積極的に探される
- 自社保有技術の開示・発信法 (GE、3M、ホンダ等)
- オープン・イノベーション実現の阻害要因と対応策
- 最後に
- 『価値づくり』とそこに向けての三位一体モデルは成長の根幹
- 「忙しく髪を振り乱している」だけの経営になっていないか