第1部. ALSの薬物治療の現状と今後求められる治療薬像
(2015年10月5日 12:15〜13:45)
筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は代表的神経変性疾患であり、比較的急速に全身の筋萎縮が進行し、多くの患者で発症から数年で上下肢の機能廃絶、嚥下と発声不能、呼吸筋麻痺に陥り、生存のためには経管栄養、人工呼吸器が必要になる。様々な原因遺伝子が同定されたが一部であり、大部分は原因不明である。現在、我が国で治療薬として承認されているのは、リルゾールとエダラボンの2種類であるが、その効果は対症的限定的である。運動ニューロン変性を抑えて、筋障害と機能低下、生命予後の自然歴を大きく改善する治療薬が求められている。
- ALSとはどんな病気か。
- 通常のALSと特殊なALS
- 原因
- 病態
- 症状と障害の特徴 – 障害される機能と障害されない機能のコントラスト
- 現行の薬物治療
- リルゾール
- エダラボン
- その他:コリンエステラーゼ阻害薬など
- 非薬物療法
- 期待される治療薬の条件
- 効果
- 運動ニューロン (上位/下位) の変性阻止/抑制
- 機能低下の抑制
- 生命予後の延長
- 摂取法:非侵襲的が望ましい
- 経口、貼付 > 筋注、皮下注 > 静注 > 髄注、脳室内投与
- 副作用:小
第2部. 孤発性ALSの病因に基づいた分子標的治療法の開発
(2015年10月5日 14:00〜15:30)
ALS患者の大多数は孤発例であり、その大多数には共通した運動ニューロンの神経病理学的所見 (TDP – 43病理) が見られ、TDP – 43病理が観察される運動ニューロンではRNA編集酵素であるADAR2 の発現が著減している。分子病態モデルマウスの解析からADAR2 の発現低下はCa2+透過性AMPA受容体の発現を介してTDP – 43病理および神経細胞死を引き起こすことが明らかになり、ALSの病因に密接に関連する分子異常であると考えられる。この分子異常を標的としたALSの特異治療法開発を含めた研究内容を概説する。
- ALSの疾患概念/病因:孤発性と家族性
- 孤発性ALSに特異的な病理変化、分子異常
- TDP – 43病理
- RNA編集酵素発現低下
- 未編集型AMPA受容体サブユニットの発現
- 孤発性ALSの分子病態モデルマウス
- 孤発性ALSに特異的な細胞死カスケードの解析
- ALSに観察される病理変化・分子異常の分子連関の解析
- →Ca2+透過性AMPA受容体発現の病因的意義
- →Ca2+シグナリング異常がもたらす緩徐な神経細胞死
- 治療の標的候補分子
- 細胞死カスケードの解析から導き出された治療標的分子
- 分子病態モデルマウスを用いた治療法開発
- 治療標的分子の正常化による表現型・病理変化・生化学変化の正常化
- 治療評価に有用なパラメーター
- 臨床試験への展望
第3部. ALSにおける臨床試験デザインのポイント
(2015年10月5日 15:45〜17:15)
筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は全身の筋萎縮をきたし、呼吸器につながらねば4-5年で死に至る重要な神経変性疾患である。この疾患の予後を変えるdisease modifying therapyは現在、リルテックRのみであり、その効果も限定的である。新規治療薬の開発にはこの生存期間 (または呼吸器装着) をend pointとする場合、数年にわたる臨床試験期間を要する。事前に設定した意味のある部分集団解析を併用することにより臨床試験は短期化することができる。この実例を中心に示し、アルツハイマー病への応用にも言及する。
- 神経変性疾患において生存期間や症状の進行抑制をprimary endpointとする臨床試験の長期化
- それを短期化する種々の試み
- 事前に設定すべき「意味のある」部分集団解析
- 早期診断・早期治療の重要性
- 早期診断のためのdisease marker
- 部分集団解析で良好な結果が得られた場合、追加試験においてプラセボ群を用いることの倫理的な問題
(ヘルシンキ宣言との関係において)
- ALSでの教訓を他の神経変性疾患 (アルツハイマー病やパーキンソン病など) にどのように生かすか?
- 世界的に前例のない超高齢化社会を迎えて、いかにDisease – Adjusted Life Years (DALY) を延ばすか?