ヒトゲノムが解読されて10年が経過し、基礎研究としてのヒトゲノム解析は多数の疾患や薬剤反応性に関わる遺伝子を同定してきた。しかしながら、これらのゲノム医学研究の成果は、いまだ医療の現場に届いておらず、個人の遺伝情報に基づいた最適な医療、すなわちオーダーメイド医療は現実のものとなっていない。
本講演では、文科省委託事業であるオーダーメイド医療実現化プロジェクトを通じて、ゲノム医学研究の現状とオーダーメイド医療を実現するための課題について述べたい。
薬剤の効果や副作用発生リスクが投与前の遺伝子検査で予測可能になり、個別化医療に応用されるようになった。また、全がん患者の約5%は家族性腫瘍と推定されていて、乳がん・大腸がんなど一部がんでは、罹患リスクを遺伝子検査で予測することも可能になった。これらの遺伝子情報は親から子に伝わるため、究極の個人情報として慎重に取扱う必要があるので、医療機関内で適切に運用することが肝要である。
本講演では、東京女子医科大学病院での経験を紹介すると共に、今後遺伝子診療をどのように我が国の医療現場に導入すべきかについてお話ししたい。
オーダーメイド医療の実現を目指した様々な研究が進展しており、基礎的な研究の成果が臨床応用される時代となり、一般の人々にとっても少しずつ身近な存在になりつつある。しかしながら、倫理的な配慮事項や、特に大規模なゲノムデータの取扱い等については、まだ解決されていない問題点が多数ある。
本講演では、これらの研究に協力する可能性のある立場のために、あるいはその成果を享受しうる患者のために、知っておいて頂きたい事柄をお話ししたい。
創薬はオーダーメイド医療に大きく転換しつつある。世界の抗がん剤をリードしているスイスRocheグループの臨床試験フェーズ1のリストを見ると、すべてコンパニオン診断薬がある。今や抗がん剤と自己免疫疾患治療薬は、オーダーメイド化することが当たり前の世界となってしまった。
しかし、オーダーメイド医療をビジネス化するには、大きな関門が控えている。コンパニオン診断薬となるバイオマーカーの探索。本業回帰によって製薬企業が診断薬部門を切り離した現在、コンパニオン診断薬の開発が新薬のボトルネックとなっている。このほか、市場の小型化、薬価の高騰、臨床試験の困難さ、少量多品種の製造販売を可能にするビジネスモデルの変革など、多様な挑戦が製薬企業の前に待ち受けている。