2013年以降のアベノミクスによる円安の進展、国内景気の回復によって、割安な海外石油化学製品の流入の減少、国内の自動車産業の業績改善、住宅建設の増加を背景に、2014年3月期の大手石油化学企業の経常利益は増益となっている。
2015年3月期も、自動車向け合成樹脂等の需要が好調なことから業績はさらに向上することが期待される。デフレーション脱却の兆しから価格転嫁も徐々に進み、日本の石油化学企業は、業績が急速に改善しているといえる。
しかし、この3年間における米国を震源地とするシェール・ガス革命によって、世界の石油化学産業の地図が急速に変貌しつつある。
日本の石油化学産業は、中国向けをはじめとしたポリエチレン、ポリプロピレンの需要が大きく減少し、2012年度のエチレン生産量は626万1,000トンと3年度連続してマイナスとなった。
しかし、国内の景気回復と円安によって、2013年のエチレン生産量は、前年比8.9%増の669万2,500トンと3年ぶりに前年を上回り、エチレン・プラントの稼働率は、2013年12月から3ヵ月連続して採算の目安である90%を上回っている。
石油化学産業の原料となるナフサの価格は、原油価格の上昇から、2014年4月には1トン当たり950ドルまで上昇し、円建てでは6年ぶりの高値となっている。回復の明るさが見えるものの、下記の4つの要因により、日本の石油化学産業を取り巻く状況は依然として厳しい。
①2014年春節以降も、中国における石油化学製品需要が伸び悩んでいること
②中国、インドをはじめとした新興経済発展諸国における石油化学生産能力の拡大が進むこと
③ロー・コストの天然ガスを原料とする安価な中東諸国の石油化学製品のアジア市場流入が増加していること
④米国におけるシェール・ガス革命による、ナフサの10分の1程度という安価なエタンを原料とする欧米石油化学メーカーの相次ぐ巨大エチレン・プラントの建設計画、が挙げられる。
国内においては、三菱化学はエチレン生産能力の3割削減を2014年5月に実施し、国内の過剰生産能力統合・再編への動きが本格化してきた。他方、日本企業は、電子機器向けをはじめとした高機能プラスチックの増産、アジア諸国への工場展開、旭化成、三菱化学をはじめとして米国におけるシェール・ガスを利用した石油化学製品製造技術の開発に活路を見出そうとしている。
日本の石油化学企業における海外展開戦略の最新動向と高機能樹脂の今後の可能性、石油化学企業の経営戦略とシェール・ガス革命に伴う事業機会について第一人者が明確に解説する。