塗布膜の乾燥機構の解明は、粒子分散系塗布膜の乾燥工程をはじめとして様々な工学等の分野で求められている重要な課題である。塗布膜の乾燥においては 、例えば乾燥後の膜厚分布が均一になることが求められるが、多くの場合、膜厚分布が均一にならず、また乾燥条件によって膜厚分布が変化することが経験的に知られていた。均一な乾燥後の膜厚分布を得るためには、塗布膜の乾燥過程の機構を解明することがまず必要で、その解明を経て、必要な制御を系に施すことにより、均一な乾燥後の膜厚分布を得るという目標へ近づくことになる。また、乾燥後の様々な欠陥を克服する際にも、同様のプロセスが必要となる。
本講演では、塗布膜の乾燥工程の機構を解明するにあたり必要となる物理学的知識、考え方の講義から始めて、それらを基にした上記工程のモデル化の実際、およびその数値シミュレーションの実際を概説する。そして、数値シミュレーション結果の分析を詳細に行い、膜乾燥における様々な問題の克服に向けて考察する。この講演が、今後参加者が実際に扱う系の乾燥過程の理解および乾燥後の欠陥対策のヒントとなることを目指す。
- 塗布膜の乾燥工程の概要と課題
- スピン塗布法など
- 減圧乾燥法など
- 液体の理論
- 液体の一般理論
- 液体中の分子にはたらく力
- 液体論からみた蒸発の考え方
- 液体の表面
- 液体の理論のモデルへの導入のポイント
- 溶液の理論
- 溶液の一般論
- 化学ポテンシャル
- 平衡系と非平衡系
- 高分子溶液の特徴
- 溶液の理論のモデルへの導入のポイント
- 表面・界面の理論
- 表面張力
- 界面のぬれ
- 界面のゆらぎ
- 表面・界面の理論のモデルへの導入のポイント
- 溶媒の蒸発速度の理論
- 蒸発速度と蒸気圧の関係
- 溶液中の溶質・溶媒の動力学
- 拡散方程式
- ナヴィエ・ストークス方程式
- 揮発中という非平衡状態での動力学
- 平坦な基板上に塗布された高分子溶液の揮発過程
- 最もシンプルなモデル化
- シンプルなモデルの改良
- 精密なモデル
- 数値シミュレーション結果の例1:膜の端部の隆起の時間発展
- 数値シミュレーション結果の例2:膜厚分布の蒸発速度依存性
- 数値シミュレーション結果の例3:膜厚分布の濃度の拡散係数依存性
- 数値シミュレーション結果の例4:膜厚分布の溶媒の拡散係数依存性
- 数値シミュレーション結果の例5:膜厚分布の溶媒の潜熱依存性
- 数値シミュレーション結果の例6:乾燥中の溶液膜各所の濃度の時間発展
- 数値シミュレーション結果の例7:膜厚分布の溶質と溶媒の分子量比依存性
- シミュレーション技術
- 拡散方程式の解法
- 流体方程式の解法
- 安定性条件
- 実験によるモデルの検証
- 膜厚分布の蒸発速度依存性
- 膜の端部の隆起の溶質分子量依存性
- モデルの発展
- 3次元モデル
- 溶質の種類が複数ある場合
- 溶媒の種類が複数ある場合
- 具体的な現象へのモデルの応用 (様々なムラ等)
- その他
- 膜厚制御の実際、今後
- 様々なムラ等の制御の例
- 端部の凹凸の制御の例1:温度管理
- 端部の凹凸の制御の例2:気圧管理
- 端部の凹凸の制御の例3:濃度管理