結晶性高分子材料の物性は、結晶が織りなすナノからミクロンスケールの階層的な構造により大きく左右される。こうした結晶構造のコントロールは、より優れた物性の発現や、更なる高機能化を図る為に必須である。従って、様々なスケールで結晶の構造を解析すると共に、そうした構造が形成される機構を正しく理解する必要がある。
高分子は長い紐状である事に起因して、特異な結晶化挙動を示す。本講座では先ず、低分子や金属と対比しながら、高分子結晶の構造と結晶化プロセスの特徴について解説する。さらに、物性との関わりが深い項目として、分子構造の規則性、温度条件、配向条件などを取り上げ、最終的にどのような構造形成につながるか、実例を交えながら紹介する。
引き続き、高分子結晶の階層的な構造を解析する手法として、顕微鏡法、および、回折・散乱による解析法について解説する。目的に応じて適切に使い分る事を念頭に、簡易かつ迅速な光学顕微鏡法から最新の放射光を用いた手法まで、幅広く紹介する。
講演の最後には高分子の結晶化メカニズムの解析の方法、新規解析技術についての質問を受け付ける。
- 高分子の結晶の基礎
- 「結晶」とは何かを再確認する
- 「結晶」の定義
- 結晶はなぜ生成するか
- 高分子結晶の構造的特徴
- 低分子結晶との対比
- 色々なスケールで見た構造 (単位格子、ラメラ晶、球晶、繊維構造、成形品)
- 高分子結晶の生成
- 結晶核の形成
- 成長のしくみ (二次核生成理論)
- 成長速度の評価
- 物性との関わりと評価法
- 結晶化度
- 融点 (結晶化速度と過冷却、ラメラ厚と融点、熱処理による厚化)
- 分子構造の規則性 (融点への影響、結晶成長への影響)
- 配向
- 構造解析法1-顕微鏡法
- 「見える」ための必要条件
- 分解能 (波長による限界、結像による限界、試料による限界)
- コントラスト (明暗、色)
- 光学顕微鏡
- 照明法について (透過、落射)
- 対物レンズ
- 偏光顕微鏡
- 微分干渉顕微鏡
- 電子顕微鏡
- 走査型電子顕微鏡
- 透過型電子顕微鏡 (明視野像観察、電子回折、暗視野観察、三次元像)
- 高分解能観察 (電子線損傷と解像限界、画像処理)
- 走査プローブ顕微鏡
- 原子間力顕微鏡:AFM (高さ像、位相像)
- 走査近接場光学顕微鏡 (SNOM)
- フィードバックパラメータについて
- 構造解析法2-回折・散乱による方法
- 回折・散乱の基礎
- ブラッグ回折
- フーリエ変換
- 逆空間
- 結晶の回折
- 逆格子 (回折反射の指数、格子面、エヴァルト球)
- 乱れた結晶からの回折 (回折点の広がりの解釈)
- 多結晶体の回折 (粉末図形、繊維図形)
- 微結晶サイズの評価 (シェラーの式)
- 様々な観察法
- 電子回折
- 小角散乱
- 積層ラメラの回折
- インバリアント
- 放射光を用いた解析の実例
- 高速時分割測定
- マッピング
- 高分子結晶化の特性を活用した加工技術の例
- ゲル紡糸
- ナノ配向結晶体 (NOC)
- 高分子結晶、測定法についての議論