高分子多孔質フィルムの作成方法について、主に、近年我々が開発した手法について説明する。孔径が0.1 μm~100 μmの多孔質膜を作成する手法として、「溶液の相分離により形成された過渡的な相分離構造を紫外線硬化樹脂の硬化により固定化し、取り出すことで多孔化を行うというもの」である。本手法により、気液相分離 (発泡) 、液液相分離、気固相分離 (一方向凍結) の3つの系について、多孔質フィルムが作成できたことから、本手法が有効であることを確認した。
特に、液液相分離で作成した多孔ポリイミドフィルムは、耐熱性が高く、空隙率も高いことから次世代の超低誘電率膜として期待されている。この他にも、気液相分離では、幾何学模様が印刷できる発泡フィルム、気固相分離では多孔構造に異方性を持たせたフィルムなどを作成するプロセスを開発している。
本講座では、まず、紫外線硬化樹脂の基礎としてその硬化過程の解析とモデル化について説明することで、硬化現象の基礎的な理解を深める。その上で、上記多孔化法について事例を交えて説明する。
- 多孔質膜の概要
- 多孔質膜の一般的な性質
- アプリケーションからの分類
- 製造法の分類
- 発泡成形技術の特徴
- 紫外線硬化樹脂を利用した多孔化法
- 紫外線硬化樹脂の硬化過程の解析とモデル化
- 紫外線硬化樹脂のアプリケーション
- 光ナノインプリント法と紫外線硬化樹脂
- 紫外線硬化樹脂の硬化過程のモデル化の必要性
- 紫外線硬化樹脂の反応機構
- 紫外線硬化樹脂の硬化過程の測定法の分類
- real time FT-IRを用いた硬化過程の測定
- real time とは
- 干渉系の分類と安定性
- 試料光学系の分類
- 開発した装置の概要
- 試料ステージの光学系
- ランバーベール則
- 試料調製法について
- ベースライン補正と波形分離
- 見かけの反応率の計算法
- 再現性に影響を及ぼす因子
- 紫外線の照射時間と反応率の関係
- 紫外線の照射強度と反応率の関係
- まとめ
- Photo DSCを用いた硬化過程の測定
- Photo DSCの分類
- 入力補償型と熱流束型DSCの違い
- Photo DSCの内部構造
- 再現性の良い実験を行うために
- 入力補償型DSCのUV強度と発熱速度の関係
- サーモグラムの変化と反応速度
- 反応温度が反応率に与える影響
- まとめ
- モデル化の概要
- 紫外線硬化樹脂の反応機構 (ラジカル系)
- 硬化反応のモデル化
- 自由体積分率
- 反応速度定数の測定法 (暗反応法)
- 反応速度定数の変化のモデル式 (ABモデル)
- 溶存酸素濃度の推定法
- 酸素の拡散奇数の測定法
- 暗反応下での反応率の時間変化
- シミュレーションで求めた反応速度定数と実験結果との比較
- まとめ
- 紫外線硬化樹脂の硬化を利用した多孔化手法
- 多孔化法のコンセプト
- 紫外線硬化樹脂の発泡
- バッチ発泡と硬化反応
- 圧力容器内の圧力変化と過飽和圧力
- 発泡過程の可視化実験
- 発泡体の断面写真
- 理論的な考察
- 発泡パターンの作製
- まとめ
- 紫外線硬化樹脂溶液の一方向凍結
- 理論的な背景
- 高分子溶液の一方向凍結
- 紫外線硬化樹脂溶液の凍結法
- 溶液の一方向凍結と溶媒結晶の成長
- 異方性多孔質フィルムの断面写真
- 凍結速度と多孔構造
- チューブ状の異方性多孔質体
- 紫外線硬化樹脂溶液の液液相分離の固定化 (多孔ポリイミド)
- 多孔化のコンセプト
- プロセス概要
- ポリイミド前駆体とモノマーの説明
- CO2と3級アミンモノマーとの両性イオンの生成
- 液液相分離の可視化映像
- 孔形成メカニズム
- ポリイミド前駆体の多孔薄膜のSEM写真
- 孔径とCO2圧力とUV強度の関係
- 比誘電率と空隙率の関係
- 多孔ポリイミド膜のアプリケーション
- 大面積化装置
- 多孔膜への線路形成の試み
- まとめ
- 総括