高齢化社会が進むにつれて、高齢者の全人口に対する比率が上がると同時に、独居する老人人口は増えている。一方、人の健康を脅かす生活習慣病の患者数が増加傾向にあり、それに充てられる医療リソースの割合はどんどん高くなっている。 世界的な課題である高齢者の安心暮らしに対するサポートと生活習慣病に対する抑制策の一環として、日常での人の生体情報のモニタリングは極めて重要であると指摘されている。 生体情報は人の体に生体センサを取り付けることによって取得できるが、人が常時に動いている状況を考えると、センサより取得した情報をワイヤレスネットワークによって収集されることが望ましい。ボディエリアネットワーク (BAN; Body Area Network) は、生体センサからの情報をリアルタイムに収集するために考案されたワイヤレスネットワークのソリューションである。 BANは体の表面、中、及びそのごく近辺に配置されている小型端末をワイヤレス通信で結ぶことによって構成され、体とその周囲を取り巻く近距離ワイヤレスネットワークである。BANは各種生体センサと組み合わせて用いれば、リアルタイムの生体情報収集に利用でき、生活習慣病予防や高齢者見守りなどに役立つのみならず、ハンディキャップの方に対する行動補助などにも活用できる。 BANに対して、すでにいくつかの国際標準規格が策定されている。それらの中でウルトラ・ワイドバンド (UWB; Ultra-wideband) 技術がBANの物理層 (PHY) 仕様の1つとして定められている。 UWBは非常に広い周波数帯域にわたって電力を拡散させ、低い電力密度をもって通信を行う無線技術で、BANにとって好都合の特徴を多数揃えている。また、UWBは高い時間分解能を有するため、測距測位やレーダなどのアプリにも適している。 本セミナーでは、まず、ZigBee Alliance、Continua Health Allianceを始めとする多くの業界団体などが行われているヘルスケア分野に対する取り組みについてレビューを行い、そして短距離ワイヤレスネットワークの現状を整理した上で、IEEE802標準化委員会における筆者の標準化経験に基づいてBANの特徴とその標準規格について解説する。 次にUWB技術とその特徴を述べ、UWBの法制化状況を触れながら、ヘルスケアや福祉などの分野での利活用を目指して、情報通信研究機構が行っているBANとUWBの開発事例を紹介する。